
紛争解決条項のこと(3)
前回は、海外との取引での契約における裁判と仲裁との差異を考えてみました。
今回は、海外との取引の契約における紛争解決条項を検討する際に欠くことのできない、準拠法と紛争解決地について考えてみましょう。
1.準拠法と紛争解決地の役割
契約書においては、それがどのような法律に従って解釈されるのかという準拠法(英文契約においては“Governing Law”、“Choice of Laws”などと言われます。)やその契約に関する紛争についてどの場所で取り扱われるべきかについての条項(英文契約においては“Jurisdiction”、“Venue”、“Forum Selection”などと言われます。)が定められます。
このような準拠法や紛争解決地についての定めを置く目的は、契約の当事者にとって、適用法令や紛争解決地の予測が立たなくなると、のちのち当事者が予測していない問題や予測していない場所での紛争に巻き込まれるリスクが生じ、とりわけ複数の国の当事者が関与する国際取引では、その安定性が害されるおそれがあるためです。
つまり、準拠法や紛争解決地の定めを置くことは、当然といえるのです。
なお、紛争解決条項を置くのは当然として、最近では日本国内の取引に関する契約書においても、準拠法を置くものをよく見るようになりました。大概は、「準拠法を日本法とする」とするものですが…。
2. 裁判管轄
紛争解決地について、裁判を例に考えてみましょう。
国内裁判管轄は、日本国内のどこで裁判をするかという問題です。
例えば、「本契約に起因または関連するすべての紛争は、東京地方裁判所または東京簡易裁判所を第一審の専属的合意裁判所とする。」といった条文に基づく場合、東京の裁判所で行われることが明確で、特段の場合を除き、契約当事者はこの条文に拘束されます。
裁判をしなければならないときは、東京で行うのであることが明らかで、安心できますね。
大阪地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所にしたければ、そのように契約書に記載すればよいのです。尤も相手方との合意が必要ですが…
これ対して、国際裁判管轄は、世界中のどの国の裁判所で裁判をするかという問題となり、その影響は国内裁判管轄の場合に比べて大きく、より慎重な判断が必要となります。
裁判に参加することの時間や費用はもちろんのこと、外国で弁護士を探して選任する困難性、使用言語の違い、そして国によって訴訟手続が異なることによる予測困難性など、外国で訴訟を行うことには多くの困難が伴います。
さらに、裁判所の所在する国の企業に有利な判決が出るというリスクも、残念ながら実際に存在します。
したがって、予想しない国での訴訟に突然巻き込まれることによる不利益は、国内の紛争より格段に大きく、事前に管轄国を決めておくことがとても重要になります。
国際裁判管轄を定める場合、管轄国の裁判制度を理解しておくことが、実務上でとても重要になります。例えば、アメリカにおいては、各州に裁判所が所在するほか、州裁判所と連邦裁判所で取り扱う事件が異なるため、どの州の裁判所かを明らかにしたうえで、どのような種類の事件においても管轄を持たせるために州裁判所と連邦裁判所のいずれも管轄裁判所とするのが一般的です。
つまり、国によって裁判制度が異なり、日本とは異なる制度を有していることは珍しくないため、その点も考慮したうえで、不測の事態が生じないよう慎重に管轄合意の内容を記載することが求められるのです。
また、以前言及した通り、相手方が裁判による判決を履行しない場合に強制執行が可能か否かについても、慎重に検討する必要があります。
なお、両当事者にとり中立的なものとするため、第三国を裁判管轄とする際の注意点としては、シンガポールなどの国際紛争解決場所を提供することを国是とするような特別な場合を除き、裁判所への提訴自体が受理されない場合もあります。
この点からも、裁判による紛争解決の場合には、紛争解決地を第三国にすることは避けた方が良いかもしれません。
3.国際仲裁の場合
それでは、前回に確認した仲裁という紛争解決手段はどうでしょうか。
ちなみに、仲裁による紛争解決条項の例とし
仲裁の判断には、裁判所の確定判決と同じ効力が付与され、強制執行が可能です。また、ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の締約国は、本コラム記載時点で170か国以上もあり、裁判での紛争解決条項の懸念事項もおおかた払拭できます。https://www.newyorkconvention.org/contracting-states/contracting-states
なお、台湾については、ニューヨーク条約の締約国ではありませんが、ニューヨーク条約に対応する国内法があります。
従い、事実上、海外との取引契約書での紛争解決条項は、ほぼ仲裁一択と言ってよいでしょう。(尤も、予測可能性が高い案件であれば、裁判による紛争解決ということもあり得ます。)
4.裁判による紛争解決と仲裁による紛争解決の費用等の比較
裁判による紛争解決と仲裁によるそれとを比較すると、前回でお話しした通り、裁判では、裁判期間が長引けば、弁護士に支払う費用は高価になりがちです。一方、仲裁においては、仲裁人に支払う費用は高めですが、仲裁機関に対する費用は低めですし、解決に要する期間は短めですので、弁護士に支払う費用は比較的安価な傾向があります。
また、国際仲裁では、以前から、電話やテレビ会議等で事前準備会合などが行われていました。
さらに、新型コロナウィルスの感染拡大により海外渡航は禁止されたため、リアルの対面を前提とする仲裁審問はすっかりオンライン化して、Zoom等を利用した証人尋問手続(審問)が実施されています。
なお、オンライン審問のメリットとしては海外渡航の時間や費用が低廉化され、多数当事者の日程調整が容易であることなどがあります。
裁判では、いまだ裁判所に赴くことが基本であるようです。
尤も、日本以外でも裁判でもIT化を進める傾向にあるようで、費用面ではそんなに差がなくなっていくのかもしれません。
4.まとめ
今回の確認事項をまとめてみましょう。
① 海外での裁判による紛争解決は、その判断の予見性が低い。
② 裁判管轄を日本にして、勝訴をしたとしても、強制執行の面で不安が残る。
③ 仲裁であれば、ニューヨーク条約の加盟国であれば、強制執行可能。
④ ニューヨーク条約の加盟国は多く、事実上、海外との取引契約の紛争解決条項はほぼ仲裁一択。
⑤ 裁判より仲裁の方が比較的安価になりがち。
いかがだったでしょうか。
海外との取引先と契約を締結する際には、参考にしては如何でしょうか。
なお、当事務所では、みなさまの個別具体的なご相談を承っております。

