
死亡された在日外国人の相続のこと
日本の法律に従って相続手続きを行えばよいのでしょうか?
結論から言えば、日本の法律に基づいて行われる場合と、当該外国人の本国の法律に基づいて行われる場合があります。
具体的な事例を想定して、確認していきましょう。
ここでポイントとなるのは、被相続人(亡くなった方)の本国法の確認と以下の4点です。
① 準拠法となるべきものの確認
② 相続にかかる身分関係等について公証役場で宣誓供述書を作成
③ 相続人全員で遺産分割協議書を作成
④ 必要な添付書類を添えて法務局に相続登記の申請
まずは、どの国の法律に基づいて相続を行うべきかを確認していきましょう。
被相続人の本国自体については、日本に在留する外国人であるならば、在留カードや外国人の住民票に国籍が記載されているため、これらから本国を確認することは可能です。
被相続人の本国が分かることにより、本国法を確認するとはできそうです。
被相続人が外国籍である場合の相続は、「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号。以下「通則法」という。)の第36条に基づき、原則として被相続人の国籍がある国の法律(本国法)が適用されます。
したがい、この事例ではオーストラリア法が準拠法となりそうですが、オーストラリアは連邦制国家であり、各州(State)や準州(Territory)がそれぞれ独自の法律を持つため、「地域的不統一法国」に該当します。
これは、アメリカ合衆国やイギリスと同様に、一国内で法域(法が適用される範囲)が異なることを意味し、国際私法(国際的な法律問題を取り扱う法律)の分野で、どの地域の法律を適用するかという問題が生じます。
この事例でいえば、ニューサウスウェールズ州法とすべきか、クイーンズランド州法とすべきかあるいは別の州法とすべきかについては、日本の国際私法では、「その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする」とされています。(通則法第38条第3項)
つまり、日本の国際私法では、オーストラリア国籍者の場合、まず「その国の規則に従って指定される法」を適用し、規則がなければ「当事者に最も密接な関係がある地域の法」を適用すると定められているのです。
「当事者に最も密接な関係がある地域の法」とは、最密接関連地(Closest Connection Place)」の原則に基づき、その行為が最も深く結びついている場所の法律を指し、具体的には当事者の出生地・常居所地・過去の常居所地などを総合的に判断して決定されます。
相続の準拠法についての考え方として、「相続統一主義」というものと「相続分割主義」というものの2つの立場があります。
「相続統一主義」は、相続財産の種類(不動産か動産かなど)や所在地に関わらず、被相続人の国籍(本国法)または最後の住所地(住所地法)に基づいて、全ての財産に統一的に適用される法律を決める考え方で、日本やドイツ、韓国などが採用しています。
これに対し、「相続分割主義」は、「不動産は所在地国の法律、動産は被相続人の本国法(または住所地法)など、財産の種類ごとに適用法が異なる」考え方で、アメリカやイギリス、オーストラリア、中国などが採用しており、「相続統一主義」と「相続分割主義」とは国際相続における準拠法決定の2つの主要な対立概念となっています。
相続で適用する「本国法」により異なるのですが、「相続統一主義」はシンプルな考え方である一方、「相続分割主義」は財産の実態に合わせる反面、複数の国の法律が関わり複雑になります。
この事例では、オーストラリアの規則等でどの法律を「本国法」として適用するかが決まります。
そして、オーストラリアは「相続分割主義」を取っている国ですので、一般的に、本国の国際私法で不動産の相続については不動産の所在地の法律によると定められており、日本にある不動産については、本国の国際私法の適用により日本法が適用になることになります。【注】あくまでも、一般論ですので、本国法の条文を確認することをお勧めします。
このように、一旦外国の法律が適用になった後、その外国の法律によりまた日本の法律が適用になる場合のことを「反致」と言います。準拠法の決定においては「反致」が成立するかどうかも検討する必要があります。「反到」が成立するかどうかは、被相続人の本国における国際私法によって決定されることになります。
さて、日本のように戸籍制度を有する国であれば、相続にかかる身分関係等は、通常は戸籍謄本等で確認できますが、戸籍制度のない国ではそれ以外の書面で証明する必要があります。
法務省の説明によれば、「戸籍」とは、人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので、日本国民について日本国民について編製され、日本国籍をも公証する唯一の制度です。
【参照】https://www.moj.go.jp/MINJI/koseki.html
戸籍制度が完備されている国は、過去に日本と関係のあった国に限られており、アメリカやオーストラリア、中国にも戸籍制度がありません。
ここで、日本において国際相続(外国籍の方がいる場合の相続)が生じることが多い韓国の相続法について、確認しておきましょう。
韓国の相続法は、日本の相続法とよく似ています。
しかし、韓国での相続の順位は、
① 直系卑属(子、孫)
② 直系尊属(父母や祖父母)
③ 兄弟姉妹
④ 4親等以内の傍系血族
であり、配偶者は
① 被相続人の直系卑属と同順位で共同相続人
② 直系卑属がいない場合には被相続人の直系尊属と同順位で共同相続人
③ 直系卑属も直系尊属もいない場合には単独相続
となります。
なお、遺産分割制度・相続の単純承認・放棄・限定承認・財産分離・相続人不存在などの制度は、日本のものとほぼ同じです。
韓国の国際私法によると、相続の準拠法は被相続人の本国法となるので、大韓民国民法が適用されます。
【韓国の戸籍制度】
韓国には戸籍制度がありましたが、2008年1月から家族関係の登録等に関する法律が施行され、同時に戸籍法が廃止されました。
そして、従来の戸籍謄本の代わりに家族関係登録簿の証明書が交付されるようになりました。
在日韓国人の中には出生・婚姻・離婚等の身分事項の届出を日本の住所地の市区町村に行うだけで、韓国にそれらの身分事項を申告しておらず、身分関係が本国の家族関係登録簿に正確に公示されていないこともあるので注意しましょう。
被相続人の死亡の事実については、本国の公的機関や在日領事館等で死亡証明書を発行してもらえますが、国際相続ではどのような証明書を取り寄せても完全な証明の期待はできません。
そこで、国際相続においては、各種証明書等による証明を補完する書面として、「宣誓供述書」(宣誓認証)を活用することが一般的です。
宣誓認証制度は、公証人法58条ノ2に定められた制度で、公証人が私署証書(作成者の署名、署名押印または記名押印のある私文書のこと)に認証を与える場合において、当事者が公証人の面前で証書の記載が真実であることを宣誓したうえで、証書に署名もしくは押印し、または証書の署名もしくは押印が自らしたものであることを認めたときは、その旨を記載して認証する制度です。
この宣誓認証を受けた文書を「宣誓供述書」といいます。
これは、公証人が私文書について作成の真正を認証するとともに、制裁の裏付けのある宣誓によって、その記載内容が真実、正確であることを作成者が表明した事実を公証するものです。
宣誓供述書の作成には、公証役場に予約を取り、公証役場に赴くのが一般的です。
本件事例の場合は、相続人は、亡在留外国人の配偶者とその子2人だけであったとして、宣誓供述書を作成したとします。実際には、個々の事案により、適用法等の必要な調査をする必要があります。
日本にある不動産の相続登記をするにあたり必要となるため、遺産分割の合意の内容を記載した遺産分割協議書を作成します。
その際には署名・実印で押捺し、印鑑登録証明書を添付することになります。
なお、子供が未成年者の場合には、母と子供とは利益相反関係になるため、母が子供を代理して遺産分割協議を行うことができません。
この場合は、母が家庭裁判所に特別代理人の選任を申立てます。
家庭裁判所により選任された特別代理人は、未成年者の利益を図る観点から遺産分割協議を行うことになります。
日本にある不動産につき相続登記を行う場合には、登記権利者である相続人が、相続に関する登記原因証明情報を提供しなければなりません。
「登記原因証明医情報」とは、登記を行う原因となった事実又は法律行為とこれに基づき現に権利変動が生じたことを証明する情報のことを言います。
【参考】https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/000130975.pdf
本件事例の場合、相続人は妻と子どもだけでなので、次のような書類を添付し、相続登記の申請をします。
① 他に相続人がいないことの証明書(宣誓供述書等)
② 遺産分割協議書
③ 相続人の印鑑登録証明書
なお、相続人が印鑑登録証明制度のない国の外国人の場合、押印すべき書類に本人が署名し、これに公証人その他の公的機関による本人が署名した旨の認証文を付した書類が、印鑑登録証明書に代わる本人の意思確認手段として使用できます。
また、在外日本人の場合も、外国の公証人や在外日本領事によって本人自身が署名した旨を証明する方法があり、これが印鑑登録証明書に代わるものとされています。
如何だったでしょうか。被相続人が在日外国人だった場合の相続手続きは、意外に大変と思われたのではないでしょうか。
今回のコラムをまとめると、次のとおりになります。
① 相続の際の準拠法は、被相続人の本国法が基本となる。
② しかし、その国の法律で「日本の法律によるべきだ」とされている場合は、日本法が適用される。
③ 国際相続では、各種証明書を補完する書面として宣誓供述書を活用することが一般的である。
④ 日本にある不動産の相続登記をする場合は、遺産分割協議書を作成する。
被相続人が在日外国人だった場合の相続手続きについて確認しました。
しかし、実際には遺言を残しておいた方が良いことが多いです。
在日外国人を配偶者にお持ちの方は、専門家に相談すると良いかもしれません。
当事務所では、外国人の相続手続きのお手伝いをしております。気になられた方は、お気軽にお問い合わせください。

