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立体商標のおはなし(2)

立体商標のおはなし(2)

これまで「立体商標」について議論された裁判例のほとんどは、

登録審査に関するもので、侵害判断の場面で「立体商標」の権利範囲が争われた事例、というのは、ほとんど見かけません。

有名な「カーネルサンダース人形」や「ペコちゃん」のように、キャラクター自体を立体化したような場合であればともかく、通常の工業製品の形状を「商標」として登録することが認められたところで、類否判断や、はたまた商標法26条(商標権の効力が及ばない範囲)との関係で、果たしてどこまで商標権の効力が認められるのか、長年気になっていました。

この点につき、エルメスのバッグに関する

商標権侵害事件(東京地判平成26年5月21日、H25(ワ)第31446号、原告・エルメスアンテルナショナル、被告・株式会社DHScorp)というのが公表され、インターネット上で被告が輸入販売されていた商品外観と、原告の保有するバッグの形状に関する立体商標との類否について、以下のような判断が示されました。

「(1) 商標と標章の類否は,対比される標章が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品・役務に使用された標章がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標と標章の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては,これを類似の標章と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。」

「原告商標は立体商標であるところ,上記類否の判断基準は立体商標においても同様にあてはまるものと解すべきであるが被告標章は一部に平面標章を含むため,主にその立体的形状に自他商品役務識別機能を有するという立体商標の特殊性に鑑み,その外観の類否判断の方法につき検討する。立体商標は,立体的形状又は立体的形状と平面標章との結合により構成されるものであり,見る方向によって視覚に映る姿が異なるという特殊性を有し,実際に使用される場合において,一時にその全体の形状を視認することができないものであるから,これを考案するに際しては,看者がこれを観察する場合に主として視認するであろう一又は二以上の特定の方向(所定方向)を想定し,所定方向からこれを見たときに看者の視覚に映る姿の特徴によって商品又は役務の出所を識別することができるものとすることが通常であると考えられる。そうであれば,立体商標においては,その全体の形状のみならず,所定方向から見たときの看者の視覚に映る外観(印象)が自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たすことになるから,当該所定方向から見たときに視覚に映る姿が特定の平面商標と同一又は近似する場合には,原則として,当該立体商標と当該平面商標との間に外観類似の関係があるというべきであり,また,そのような所定方向が二方向以上ある場合には,いずれの所定方向から見たときの看者の視覚に映る姿にも,それぞれ独立に商品又は役務の出所識別機能が付与されていることになるから,いずれか一方向の所定方向から見たときに視覚に映る姿が特定の平面商標と同一又は近似していればこのような外観類似の関係があるというべきであるが,およそ所定方向には当たらない方向から立体商標を見た場合に看者の視覚に映る姿は,このような外観類似に係る類否判断の要素とはならないものと解するのが相当である。そして,いずれの方向が所定方向であるかは,当該立体商標の構成態様に基づき,個別的,客観的に判断されるべき事柄であるというべきである。」 

「(2) これを本件について検討するに,原告標章,被告標章はいずれも,内部に物を収納し,ハンドルを持って携帯するハンドバックに係るものであるから,ハンドルを持って携帯した際の下部が底面となり,この台形状の底面の短辺と接続し,ハンドルが取り付けられていない縦長の二等辺三角形の形状を有する面が側面となることはそれぞれ明らかである。そして,その余の面のうち,蓋部,固定具が表示されている大きな台形状の面が正面部に該当し,かつこの正面部には,その対面側に相当する背面部とは異なり,装飾的要素をも備えた蓋部,ベルト,固定具が表示されており,ハンドルを持って携帯した際に携帯者側に向かって隠れる背面部とは異なって外部に向き,他者の注意を惹くものであるから,この正面部は,少なくとも所定方向の一つに該当するものと解される。これは,被告の開設したインターネットショッピングサイトにおいて,いずれもこの正面部を含む写真が表示されていることのほか,各商品の紹介においては,全てこの正面部のみが表示されていることも,正面部が所定方向であることを裏付けるものであるということができる。そして,この正面部から観察した場合,原告標章と被告標章とは・・・(以下略)・・・所定方向である正面から見たときに視覚に映る姿が,少なくとも近似しているというべきであり,両者は外観類似の関係にあるということができる。被告標章は,原告標章では立体的構成とされている蓋部,左右一対のベルトとこれを固定する左右一対の補助固定具,先端にリング状を形成した固定具,ハンドルの下部(正面部と重なりベルト付近まで至る部分)について,これらの質感を立体的に表現した写真を印刷して表面に貼付した平面上の構成とされているところ,これを正面から見た場合に上記共通点に係る視覚的特徴を看取できるものというべきである。一方,上部及び側面方向から被告標章を観察した場合には,原告標章では立体的に表現された上記蓋部等が立体的でないことは看て取れるものの,上部及び側面は,いずれも所定方向には該当せず,上記所定方向から観察した場合の外観の類否に影響するものではない。」

(以上16~19頁、強調筆者)

これまで立体商標の類否に係る商標審査基準の中で指摘されていた内容や、

この分野ではとても有名な「タコ」商標の事件(東京高判平成13年1月31日、拒絶不服不成立審決取消請求事件)など、これまでの審決系事件で示されてきた考え方を、侵害事件においても使える、ということを示した点において、本判決の意義は大きいといえるように思われます。

そして、審決取消訴訟において権利化が確定したホンダのケースでも、登録が予定される「スーパーカブ」立体商標の「5方向からのイメージ」と、相手方の製品とを、上記のロジックに則って比較していけば、侵害成否について、それなりに納得できる結論が導かれるのかもしれません。

もっとも、上で紹介したエルメスバッグ事件においては、被告側が実質的な反論を行っておらず、商標法26条に基づく抗弁の成否等について、緻密な判断が行われているわけではない、という点に留意する必要があるかもしれません。