立体商標のおはなし

立体商標のおはなし

これは私がある企業に勤めていたときの話です。

2000年も初めのころで、私が中途入社して1年くらい経ったときのことでした。

デスクに座っていつもどおり契約書のチェックをしていたところ、国際営業部の部員が息せき切って入ってきました。

「永井さん、こんなレターが来ました。警告文みたいです。」

手渡されたレターは、勤務先がドイツで販売している製品のパッケージの箱が、相手先の立体商標を侵害しているという内容でした。当時は、日本では、平成8年(1986年)の商標法改正で立体商標の規定ができたものの、私自身が立体商標の内容をよく理解できておらず、意匠侵害を主張しているのかと勘違いしたものです。

意匠と立体商標は、物のデザインを対象としている点で共通していますが、意匠はデザイン(形状)自体を保護しているのに対して、立体商標は形状自体を保護しているわけではありません。

立体商標は、形状自体ではなく、その形状の背後にある蓄積された「業務上の信用」を保護している点で、意匠とは異なります。

意匠登録の要件は、新規性や独創性(オリジナリティ)などで、これらがないと権利取得はできませんが、立体商標は、文字商標などと同じく、商標としての機能を有するか、先行商標と類似していないかなどの商標登録の要件をクリアする必要があるものの、新規性や独創性などは要件とされていません。

さて、警告文を受けた件ですが、

そもそも、権利保護もなにもないまま、製品を販売すること自体が問題といえます。

製品を販売する際は第三者の権利を侵害しないかどうかを十分調査したうえ、必要な手当てをとって、製品販売をすることが必要です。

もし権利侵害が認められたら、権利侵害をしたとされた企業にとり、獲得した利益が全部吹き飛ぶどころではありません。

さっそく、ドイツの特許弁護士事務所を通じて警告レターを出した相手先を調査しました。当該事務所の調査報告によれば、相手方は①デザイン会社であり、②当該商標をドイツにおいて登録出願しているものの、③当該商標を実施していないというものでした。

「登録出願しているものの」「商標を実施していない」のであれば、日本法であれば、「不使用にもとづく登録取消審判請求」を主張することができます。

「おそらく日本の商標法と同様な規定がドイツにもあるのではないか。」 そう考えて、ドイツの特許弁護士に確認を取りました。その特許弁護士が言うには、「あるよ。」

日本と同じような制度があるのであれば、日本と同じような主張をすればよいわけです。

さっそく、ドイツの特許弁護士に反論レターを書いてもらいました。

その結果としてこの主張は功を奏し、

相手方の要求を排除することができました。

この会社は、権利侵害の可能性の確認をしないまま、また必要な手当てをせずに製品を販売するという過ちがありましたが、危ないと感じたらすぐに私に連絡をとっていただくという風土ができていましたので、事なきを得ました。

また、たまたま相手方が十分な措置を取っていなかったという幸運もありました。

これは、「事業を行う前には、法的なリスクを十分に検討してから行わなければならない。」というリスク管理の教訓を、改めて思い出させてくれた一件でした。