不在者財産管理人のこと
ご存じでしょうか? 今回は、不在者財産管理人について、見ていきましょう。
不在者財産管理人とは、行方不明になっている人の財産を適切に管理する職務を負う人のことで、家庭裁判所によって選任されます。
不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができます。
相続人が行方不明で遺産分割協議できないときにも、不在者財産管理人を選任すれば代わりに遺産分割協議に参加することで、相続手続きを進められます。
なお、不在者財産管理人は裁判所の監督下におかれます。また、報酬が発生する場合もあるので注意が必要です。
不在者財産管理人は、居場所がわからない本人のために適切な方法で本人名義の財産を管理します。また、不在者の財産について目録や収支報告書を作成し、定期的に裁判所へ報告する義務を負います。なお、本人の利益に反する方法で、財産を勝手に処分することは許されません。
不在者財産管理人はどのような場合に選任されるのでしょうか。
不在者財産管理人を選任できるのは、本人が行方不明で「不在者」といえる場合のみです。
不在者とは、住所又は居所を去って、容易に帰ってくる見込みのない人 をいいます。 生きている場合だけではなく、亡くなっている可能性がある場合も含み ます。
不在者であると認定されるには、住民票上の住所に居住していないことは勿論、他に連絡をとる方法が一切ない状態が数年継続しているような状態が必要です。
不在者財産管理人はどのような場合に選任したほうが良いのでしょうか。
次のような場合が考えられます。
- 不在者が遺産分割協議の対象となっているとき
- 不在者との共有物件を保有しており、これを処分したいとき
- 不在者が高額な財産を所有しており、適切に管理する必要があるとき
不在者財産管理人を選任した場合であっても、当然ながら本人は「不在者」なのであり、死亡したことになりません。
失踪宣告の宣言をされたならば、本人は死亡したとみなされます。
失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる民法上の制度です。なお、普通の失踪宣告を申し立てるには「7年以上行方不明」である必要があります。
(失踪の宣告) 第三十条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。 2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。 (失踪の宣告の効力) 第三十一条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。 |
一方、不在者財産管理人の場合にはこういった期間制限はありません。
連絡がつかない相続人が行方不明になってから7年が経過しているなら、失踪宣告を申し立てることによっても遺産相続手続きを進められる場合があります。
不在者財産管理人は「不在者の従前の住所地または居所地の家庭裁判所」へ申立をして選任してもらいます。申立てをすることができるのは、配偶者や相続人、債権者等の利害関係人、検察官です。
申立てに必要な書類は、次の通りです。
- 家事審判申立書(裁判所の定める書式)
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
- 不在に事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
- 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書),賃貸借契約書写し、金銭消費貸借契約書写し等)
もし、申立て前に入手が不可能な書類がある場合は、その書類は申立後に追加提出することもできます。また、同一の種類は1つで足ります。
なお、審理のために必要な場合は、裁判所より追加書類が指定されます。
申立てにかかる費用は次の通りです。
- 800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(申立てをする家庭裁判所により異なる)
- 戸籍謄本取得費用 1,000円程度~5,000円程度(取得する書類数によって異なる)
上記の他、不在者の財産の内容から、財産管理に必要な費用が不足することが予想される場合、不在者財産管理人が円滑に事務を行うことができるように、裁判所から予納金の納付を要求されることもあります。
利害関係のない人であれば、候補に立てることができます。候補者がいない場合には弁護士や司法書士などの専門家から選任される場合が多いです。
不在者財産管理人は、不在者本人のために財産管理を行いますので、本人に不利な財産処分はできません。
遺産分割協議の際には、少なくとも「法定相続分」を取得させる必要があります。
従い、不在者本人の法定相続分を割り込む遺産分割協議は、裁判所が許可しないと考えてよいでしょう。
不在者財産管理人になると、適切に財産管理をして定期的に裁判所へ報告しなければなりません。
特に親族が選任されると負担が重いと感じることもあるので、候補者を立てるときには、事前に十分納得した貰うことが必要です。
専門家が不在者財産管理人に選任されると、基本的に報酬が発生します。
報酬の相場は月額2~6万程度となるケースが多いようです。
報酬は不在者の財産から支出されますが、後に本人と連絡がとれたとき等に、本人が納得せずトラブルに発展することもあります。
不在者財産管理人の業務は、遺産分割が終わっても続きます。
不在者財産管理人の業務が終了するのは、以下の3つのいずれかの場合だけです。
- 不在者が現れたとき
- 不在者の死亡が確認されたとき
- 不在者の失踪宣告が行われたとき
親族が不在者財産管理人に選任されたときには、不在者が帰ってくるか死亡が確認されるか失踪宣告するかにずれかの時まで、その負担は継続します。
また、専門家が選任されたときには、報酬がかかり続けてしまいます。
遺産分割手続きが終わっても、分割手続き前の状態に戻らないので、不在者財産管理人の選任申立てには、事前の十分な検討が必要です。
遺産分割を行う際に、行方不明の相続人がいたら、まずは所在調査を進めるべきでしょう。
それでも全く居場所がわからなければ、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申立てを検討しましょう。
自己判断で対応すると思わぬ不利益を受ける可能性もあります。不安な場合は、まずは専門家に相談してから対応を進めましょう。