
遺言書の作成について
そのような時に、注意すべきポイントはどのようなものでしょうか。
一緒に考えてみましょう。
遺言書がなければ、相続財産は相続人に法定相続分に従い承継されます。
遺言書を作っておくべきなのはどんな場合でしょうか?法定相続の例外を作りたいときであると想像されますね。
それでは、具体的に必要な場合を考えてみましょう。
まずは、法定相続分と異なる相続を望む場合です。
「この財産は是非あの人に相続させたい」「世話になった長男に法定相続分より多めに相続させたい」などという場合がこれに当たります。
遺言書がなければ、自分の思うように相続をさせることはできません。
遺言書にしっかり自分の思いを書きこんで、疑義のないようにしましょう。
「自宅は妻に残して、住み慣れた場所で過ごしてほしい。子供たちには預金や有価証券を渡すことにしたい。」といった思いをお持ちなら、遺言で明確にしておくべきです。
なお、不動産の表示を正確に記載することも相続人間の争い防止には必要です。
自分ではわかっている、相続人もみんな知っている、などと、安易な考えで記載をすると遺言の効力に問題が生じ、極端な場合は無効になることもあります。
長男夫婦には同居して長く世話になり、特にお嫁さんにはお世話になった。
長男の相続分を多くしてお嫁さんに報いてやりたいなどという場合がこれに該当します。
後述の遺留分や特別受益などとの関係も考慮し、遺言書にどのように記載するか、などは専門家のアドバイスを受けたほうが良いでしょう。
「同居してよく尽くしてくれた長男のお嫁さんに財産を残したい。」などという場合がこれに該当します。
ご長男がご存命ならご長男の相続分を増やせば対応できるかもしれませんが、ご長男が他界されていると、そのままではご長男の法定相続分は代襲相続としてご長男の子(お孫さん)に相続されたり、また長男に子供がないと他の兄弟姉妹等に相続され、お嫁さんの分として財産を残してあげることができません。
また、それ以外にも、内縁の妻や、親しい友人に残したい、お世話になった病院に寄付したい、母校に寄付したい、公益事業に寄付したい等様々な思いもあるでしょう。
遺言書で誰に何を残すのか(遺贈)を明確にしておく必要があります。
特別受益とは、生前贈与や遺贈などによって一部の相続人が、亡くなった方(被相続人)から受けた特別な利益をいいます。特定の相続人の特別に学費を贈与として渡していたとか、特定の相続人に生命保険金が支払われる場合などがこれに該当します。
具体例を挙げて考えましょう。
兄弟2人で父親の財産(1億円)を相続することになったとして、兄だけが2,000万円の生前贈与を受けていたとします。
この1億円を1/2ずつ相続するとしたら、弟は不公平感を感じるでしょう。この場合、弟の立場からすると、生前贈与を受けていた分、兄の相続分を減らし、自分の相続分を増やしたいと考えるのが普通です。
こうした相続人間の不公平をなくすために行うのが、「特別受益の持ち戻し」です。つまり、特別受益の持ち戻しとは、特別受益分を遺産の中に入れて、具体的相続分(各相続人が相続できる金額のこと)を計算することをいいます。
この場合では、1億円+2,000万円を相続財産として扱います。
兄・弟ともに法定相続分に従って1/2ずつ6,000万円を相続する場合、兄はすでに2,000万円をもらっていますので、兄が4,000万円、弟が6,000万円相続する、という扱いになります。
ただし、特別受益に当たる生前贈与などがあっても、誰も特別受益を主張しない場合には、持ち戻しをせずに遺産分割を進めても構いません。例えば、上記の例でいえば兄だけが生前贈与を受け取っていたとしても、弟が納得していれば持ち戻しをしなくても良いのです。
しかし、兄弟間の争いとなる可能性を未然に防ぐために、遺言書を残しておいた方が無難です。
なお、生命保険の保険金は保険金受取人の「固有の権利」であり、相続財産に含めず(持ち戻しをせず)、保険金受取人についても特別受益者としないことが通例です。
ただし、これも例外があり、専門家のアドバイスを受けておくことをお勧めします。
遺言書に「特別利益の持ち戻しの免除」をあらかじめ定めておくことができます。
この特別利益の持ち戻しの免除の意思表示があった場合、特別受益があったとしても持ち戻しをせず、被相続人(亡くなった方)の意思に従うことになります。
例えば、被相続人の意思として、長男には家業を継ぐので事業用資産を贈与した等といった場合であれば、「生前贈与があったとしても、その分は特別受益の計算を行わない」という扱いを遺言で定めておくことが可能です。
ただし、遺言書にどのように記載するか、また持ち戻しの免除で遺留分を侵害することがないか等、専門的な検討が必要です。
被相続人の事業に貢献したとか、療養看護に尽くしてきた方などについてちゃんと報いたい、という場合にも遺言で明記することが役に立ちます。
民法では法定相続人の「寄与分」とか法定相続人以外の「特別寄与料」という制度で明記されていますが、詳しく知っている人は少ないでしょう。
法律の制度を確認したうえで、被相続人の意思として遺言に明記しておくことをお勧めします。
専門家のアドバイスを受けたほうが良いでしょう。
例えば、次のようなケースです。
長男が被相続人の事業を手伝ってきた、次男が被相続人の事業に資金を提供していた、長女が仕事をやめて入院中の世話に尽くしてくれた。
相続人間の協議で、寄与分はその人の相続財産に加えることができます(共同相続の財産から寄与分は除いて計算し、当該相続人が寄与分を相続します。民法904条の2)。
遺言で寄与分の指定も可能です。
共同相続人でなくても、親族で被相続人の事業に貢献したとか、療養看護に尽くしてきた方については、「特別寄与料」の支払いを相続人に請求できるようになりました(民法1050条)。
これも、遺言で明記しておけば、相続人の協議より優先します。
お世話になった親族に確実に報いることができます。
「寄与分」は法定相続人、「特別寄与料」は法定相続人以外の親族についての制度ですが、このような方以外でも、お世話になった方に遺言で相続財産を遺贈することはもちろん可能です。
結婚していない女性との間で子供ができたが、妻や家族などのトラブルなどを恐れて生前には認知できなかった、という場合などでは、遺言により認知することができます(遺言認知)。
これによりその子供は晴れて子となり、相続権も発生します。
ただし、認知される子供の承諾が必要です(子供が未成年の場合には母親の承諾)。
また遺言執行者を定めておくことも必要です。
必ず専門家のアドバイスを受けておくべきです。
相続人による虐待や重大な侮辱行為がある場合に、こんな相続人には相続させたくない、ということもあるでしょう。
遺言で特定の相続人を相続人から外す「廃除」という方法が認められています(民法893条)。
遺言執行者が相続開始後に家庭裁判所に廃除の請求をして、認められればその相続人は廃除されます。
廃除ができる要件も手続きも厳格に定められています。
専門家の助言を得て対応してください。
ここまででもお分かりの通り、遺言書はちょっとした記載の違いで効力に問題が生じます。
遺言には厳格な様式が定められており、これに従っていないと無効になってしまいます。
決して独りよがりで書いてはいけないものなのです。
一般に用いられている遺言の種類と、注意点に触れておきます。
全文自筆で書くやり方です(ワープロなどはだめです)。
日付や署名押印なども必須です。
誰にも知られずに書くことができますが、逆に間違いを起こしやすいものです。
公証人の面前で2人の承認に立ち会ってもらって、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で説明(口授)、公証人に遺言書を作ってもらうやり方です。
法律の専門家である公証人が作ってくれるので、内容・形式の不備はまずありえません。
しかも、遺言書は公証人役場で保管してくれます。多少の費用は掛かりますが安全確実なやり方です。
遺言書は相続人には見られたくないし、知られたくないでしょう。
とはいえ、自分だけが分かる場所に保管していると、いざ相続発生時に法定相続人など関係者が遺言書を見つけられない、作ったのに役立たない、ということになりかねません。
また、紛失・毀損といったおそれもあります。
公正証書遺言がその点ではお勧めですが、公証人にも2人の証人にも内容が知られてしまうのを嫌がる人もいるかもしれません。
どの様式の遺言を作り、どのように保管するか、ということも専門家のアドバイスを受けておくべきです。
以上も踏まえて、遺言書に書くべき代表的な事項をまとめておきましょう。
相続人の廃除・欠格
子の認知
これらは遺言執行者によって家庭裁判所に申し立ててもらって初めて効力が生じます。
法定相続分にかかわらず、遺産の取り分を、遺言者が自由に決定することも可能です。
たとえば、妻に少し多めに、疎遠な子供たちは少なめに、などといったことです。
遺産の分割方法を指定したり(居宅は妻に相続させるなど)、分割方法を第三者に委託するといったことも可能です。
また、相続時のもめごとを避けたいといった事情で、相続開始から5年を超えない期間で、遺産分割を禁ずることもできます。
相続人以外の人への相続財産の遺贈を定めることができます。
遺言執行者は、預貯金の名義変更や土地の変更登記のような手続を執行してくれる人です。
前述の廃除や認知などもこれらの手続きの一つです。
遺言で遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委任することが出来ます。
これは何よりのポイントであり、真っ先に取り組むべきことです。
ここで間違っていると、後で相続人間のもめごとになりかねません。
法定相続人を取り違えていると、遺産分割の前提が崩れてしまいます。
相続開始後に隠れ相続人が出てきたら、相続人間でまとまっていた遺産分割協議も無効になってしまいます。
逆に、廃除したい相続人がいるなら、これも明確にしておく必要があります。
また、前述の特別受益や特別寄与者等の注意すべき相手を把握しておくことも必要です。
繰り返しですが、必ず専門家のアドバイスを受けてください。
遺言でも、法定相続人の遺留分を侵害することはできません。
遺留分は、一定の範囲の法定相続人に認められている最低限の遺産取得分です。
単純にいえば、兄弟姉妹以外の法定相続人について、法定相続分の半分の遺留分が認められているとお考えください。
2人の子供のうち、1人に全額を相続させ、もう一人には1銭も相続させない、といった乱暴な遺言を残した場合、相続させた子供が相続させなかった子供から遺留分侵害額請求を受ける可能性があり、兄弟間の争いのもとになってしまうかもしれません。
遺言での相続分や遺産分割方法の指定、遺贈などについて、遺留分を侵害しないように定めることが望ましいでしょう。専門家のアドバイスがここでも必要です。
遺言を実際に執行する事務手続きの担当者です。
遺言執行者の候補者に依頼をして承諾を得ておいてください。
また、遺言執行者の指定をどなたかに委託したいのなら、その方の承諾を得ておいてください。
どのような趣旨でこのような遺言にしたのか、趣旨を書いておきます。
万一不明なことがあった場合などに解釈のよりどころになります。
一度遺言を作っても、その後ご自身の気持ちが変化したり、あるいは相続人の事情の変化から別途配慮したくなることも出てくるでしょう(例えば、孫が生まれた、など)。
相続財産の価値が変動することもあるでしょう。
遺言は定期的に見直すべきです。
まとめ
以上でまとめたのは、遺言書作成にあたってのごく基本的な注意事項です。
財産の状況や相続人、他の関係者の状況により、遺言作成の注意事項はさらに広範なものになります。
相続発生が見込まれるなら、ともかく早め早めに専門家に相談してください。
早めの準備が、後の紛争を避けるための一番の道です。