著作権侵害の要件
どのようなものでしょうか。
著作権侵害を成立させる基準には、著作権の存在のほか、『依拠性』(既存の著作物を利用して創作すること)や『類似性』などがあります。
自分が運営しているサイトの記事が無断で転用されていたり、撮影した写真や描いた絵画がそのまま利用されたりした場合、著作権侵害の疑いがあります。 しかし、著作権侵害をしているかどうかの基準を満たさないケースもあり、被害者の訴えが却下されてしまうことあります。
著作権侵害に該当するかは、5つの要件(条件)で判断が可能です。自分の著作物を利用されていると気付いた場合や、逆に自分が他人の著作物を利用する場合は、以下の著作権侵害の要件を参考にしてください。
著作者に与えられている権利は、著作物の財産的な利益を保護する「著作権」と、著作物に対して持つ人格的な利益を保護する「著作者人格権」の2種類に分類されます。
著作権については、著作者の了解を得ずに複製(コピー)を行うことを禁じる『複製権』や、著作者の了解を得ずにコピー品を勝手に公衆に提供することを禁じる『譲渡権』、著作者の了解を得ずに著作物を改変することを禁じる『翻案権』などがあります。
著作者人格権については、著作物を公衆に提供し又は提示する『公表権』、著作物を公表する際に著作者名の表示方法等を決定する『氏名表示権』、その著作物及びその題号の同一性を保持する『同一性保持権』の3種類があります。
上記のような著作権や著作者人格権を侵害しているか否かを判断するには、つぎの5つの基準を確認する必要があります。
・著作物であるかどうか
・著作権があるかどうか
・依拠性があるかどうか
・類似性があるかどうか
・著作物利用の権限があるかどうか
これらのそれぞれについて見ていきましょう。
著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1号)です。しかし、これらには該当しそうもないコンピュータ・プログラムや編集した物、コンピュータで検索することができる一定のデータベースについても著作物とされています。
著作権を有する者(著作権者)の権利の及ぶ著作物の種類として、次のようなものがあります。
- 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
- 楽曲や歌詞といった音楽の著作物
- 舞踊(ダンス)又は無言劇(パントマイム)の著作物
- 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物(美術工芸品を含む)
- 建築の著作物
- 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物(コンピュータ・プログラム)
- 二次的著作物(小説に基づく映画や劇など)
- 編集著作物(百科事典、辞書、新聞、雑誌など)
- データベースの著作物(コンピュータで検索できるもので創作性の有るもの)
しかし、著作権者の権利の及ばない著作物もあります。憲法等の法令や、国又は地方公共団体等が発する告示、訓令、通達など、及び裁判所の判決などが、これに該当します。
著作権があるか否か
上記の通り、法令等は著作権の及ばない著作物です。しかし、大概の著作物には著作権が及ぶと見たほうが良いでしょう。
もっとも、著作権の存続期間であることと、日本法での保護の対象である必要があります。
著作権は著作物の創作と同時に発生する(無方式主義)
ところで、「著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる」(著作権法第51条第1項)とされ、著作権は著作物の創作と同時に発生します。
これは、無方式主義と呼ばれ、登録等の手続は必要とされていません。特許権や商標権等と異なるところです。
著作権の存続期間は原則として創作者の死後70年
著作権の存続期間は、創作のときにはじまり、「著作者の死後70年を経過するまでの間」が原則です。(著作権法第51条第2項)
ただし、無名又は変名の著作物の著作権は、「その著作物の公表後70年を経過するまで」が原則的な存続期間です。しかし、「その存続期間の満了前にその著作者の死後70年を経過していると認められる無名又は変名の著作物の著作権は、その著作者の死後70年を経過したと認められる時に消滅する」とされています。(著作権法第52条第1項)
また、団体名義の著作物、映画の著作物は、「その著作物の公表後70年(その著作物がその創作後70年以内に公表されなかつたときは、その創作後70年)を経過するまで」が存続期間とされています。(著作権法第53条第1項、第54条第1項)
もっとも、これらには特例があり、日本国外の著作物については、ベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)や、著作権に関する世界知的所有権機関条約、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定などの加盟国は、それぞれの条約又は協定の規定に基づいて、その本国において定められる著作権の存続期間によるものとされています。(著作権法第58条)
日本法での保護の対象である
日本の著作権法第6条に「保護を受ける著作物」として次のように規定しています。
著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
一 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物
二 最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から三十日以内に国内において発行されたものを含む。)
三 前二号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物
依拠性があるかどうか
依拠性があるかどうかは、著作権の効力が及ぶ範囲内で、既存の著作物に影響を受けて創作された点に注目します。
- 依拠性とは
依拠性とは、既存の他人の著作物を利用して自分の作品を作出することです。創作した個人のオリジナルではなく、既にある他人の作品を利用して創作した場合は複製権や翻案権における著作権侵害が成立します。しかし、既存の著作物を知らずに創作した作品が偶然一致した場合は著作権の侵害にはならないとされています
- 依拠性について言及した判例
依拠性について言及した判例としては、「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件」の最高裁のもの(最判昭和53.9.7)が有名です。
作曲家が創作した曲が既存の作品と類似しているとして、著作権侵害が争われましたが、結果的には2つの創作物が偶然に一致したものとされ、依拠性が認められないことを理由に著作権侵害は認められませんでした。
「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従って、その存在、内容を知らなかった者は、これを知らなかったことにつき過失があると否とにかかわらず、・・・既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。」
エ)類似性があるかどうか
既存の著作物と似ていることで、著作権法に違反しているとされる場合があります。
ただし、単に既存の著作物と似ているだけで、著作権侵害だと認められる訳でもありません。類似性とは、他人の著作物の特徴的な表現の部分が、著作物に利用されていることです。
著作権侵害になる著作物の類似性は、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を直接感得できることにより、その有無が判断されます。逆に言えば、ありふれた表現は、著作権侵害とはなりません。
例えば、写真やイラストでパターンが限定されるポーズや、小説やエッセーなどで取扱う事実などは、独自の特徴的な表現とはいえず、他人の著作物と類似していても著作権法違反にはなりません。
しかし、他人の作品の表現形式上の本質的な特徴が感じられるものについては、著作権侵害の要件である類似性が認められます。これの代表的な判例として、「パロディ・モンタージュ写真事件」(最判昭和55.3.28)があります。
この事件は、写真家であるAが、パロディ作家であるBに対し、自分の写真作品の一部が、フォトモンタージュ技法により無断合成されたとして、損害賠償等を求めたものです。
「パロディ・モンタージュ写真事件」で、裁判所は、「自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られる」と判断しました。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/283/053283_hanrei.pdfまた、もう一つの代表的な判例として、「江差追分事件」があります。(最判平成13年6月28日)
この事件は、「江差追分」(北海道の民謡)に関するノンフィクション作品の著者であるAが、江差追分のルーツを求めることをテーマとした番組(以下「本件番組」という。)を制作して放送した放送局Bに対し、本件番組のナレーション部分(以下「本件ナレーション」という。)がAの著作権(翻案権、放送権)を侵害したとして、損害賠償を求めたものです。
最高裁判所は、「翻案権の侵害」について、以下の通り判断しました。
「言語の著作物の翻案…とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。」
「そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、既存の著作物に依拠して創作された著作物がアイディア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案にはあたらない」
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/267/052267_hanrei.pdfつまり、著作権侵害(翻案権侵害)と判断するには、著作物における「創作的表現」の部分についての類似性(本質的特徴を直接感得できるという意味での類似性)が必要であるということです。
オ)著作物利用の権限があるかどうか
上記のア)イ)ウ)エ)の4つの要件に加え、著作物利用の権限を得ていない場合は、著作権侵害が成立します。著作物の無断使用は著作権侵害に該当しますが、著作者より了解を得るなどの方法を取れば著作物の利用ができます。
- 著作物の利用の許諾をうける
「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる」(著作権法第63条第1項)との規定にもとづいて、著作物の利用の許諾(ライセンス)を受ける方法があります。
この場合、契約書で権利義務関係を明確にしておいた方が良いでしょう。
- 著作権の譲渡を受ける
もう一つの方法は、「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。」(著作権法第61条)との規定にもとづいて、著作権を譲りうけるというものです。
この場合は、契約書で権利義務関係を明確にすることに加え、譲渡の事実を登録することをお勧めします。
- 裁定により著作物の利用を可能にする
さらには、文化庁長官の裁定を受けて利用することができる場合もあります。
しかし、これには条件があって、
- 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物であること
- 著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合であること
- 文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託すること
が必要です。(著作権法第67条)
これを使うには、著作権に詳しい専門家の手助けが必要だと思います。ちなみに、文化庁への登録申請業務は、行政書士の専管業務となっています。
以上、著作権侵害に該当するかを判断する5つの要件(条件)の説明でした。如何だったでしょうか。
もし、他者が著作権侵害していることを発見した場合は、どうすればよいのでしょうか。
著作権侵害の要件を満たし、自分の著作物が無断で利用されていることが判明した際、まずは自分が著作者であることの証拠(著作物の原本・データファイルなど)と相手側が無断で著作物を利用していることの証拠(公開サイトのURLや具体的に類似している部分)を確認することが重要です。
その上で、加害者に警告文を送るようにしましょう。
自分の著作物を複製や翻案などして公開していること及び著作権侵害の旨を明確に伝えて、利用停止を促すべきです。法律に違反していることを指摘すれば、加害者は公開を止めることでしょう。
警告文をご自分で作成することに不安な方は、著作権に精通した専門家に相談することをお勧めします。