英文契約に関する雑感

英文契約に関する雑感

最近、海外と直接取引をする企業が増えてきているようです。

長年にわたり一般企業で法務の職に携わり、海外との契約交渉で様々な失敗を重ねてきた(実はこれは海外との契約交渉に限ったことではないのですが…)身としては、これから海外直接取引を始める企業や始めてまだ経験の浅い企業は、私と同じ経験をするのであろうなとも思ってしまいます。

それは何か?

それは、「英文契約の理解にあたっては、英米法の基礎的理解が欠かせないのにも拘らず、日本法の文脈の中で誤解してしまいがち」ということです。

英文契約書を手にして、これを単なる英文で書かれた文書として理解しようとする場合があるかもしれません。

単なる英文で書かれたビジネス文書として読んでいくと、まず

「見かけない表現に戸惑う」

ということはないでしょうか?

日本文で書かれた契約書でも、読み進んでいくうちに、一般のビジネス文書では出てこないような特殊な表現に戸惑いの経験をされた方もいるのではないでしょうか?

これとまるきり同じことです。

しかし、これはまだ良い方なのかもしれません。

和訳したうえで無理やり理解しようとして、

「分かったような気になる」

このほうがよほど危険です。

日本法の文脈の中で理解しているからです。

実際のところ、これらの「誤った理解」又は「誤解」がひろく行われているようで、裁判の判例でも同じような話があります。

M&A契約の実務では、英米で発達した手法が取り入れられ、契約書においても英文契約において多用される表明保証条項があることが多いので、これをご覧になられた方も多いかもしれません。

因みに表明保証条項とは、買収対象会社の財務状況、法令違反の有無などについて、それらの事実が真実であることを表明保証させ、それらの事実が真実でない場合(表明保証違反)には、損害賠償の請求等を可能とする旨を規定したものです。

M&Aにおいては限られた短い期間内にデューデリジェンスを行わなければならず、買収対象会社に関する保有情報の質及び量からいって、買い手は売り手よりも相対的に弱い立場におかれます。この弱い立場の買い手を守るために、表明保証条項があると言ってよいでしょう。

そもそも、英米法の体系下の国では、不文法が基本であることから、何か問題が生じたときに備え、その場合の処理につき契約の中であらかじめ取り決めておくことが必要であり、「表明保証」という概念が生まれました。これは、買い手の悪意(欠陥があることを知っていること)等の要件は必要とされません。

日本法では、契約の内容に何か問題が生じた場合は、それについては民法や商法といった成文法に従って解釈されるため、「表明保証」という概念はもともとありませんでしたが、日本文のM&A契約書におかれた表明保証条項は、日本法の文脈の中で瑕疵担保責任として理解されてしまいました。

例えばある裁判では「原告(買い手)が被告(売り手)らが本件表明保証違反を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告(買い手)の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れる余地がある」と判断しています。(東京地判平18.1.17判タ1230・206)

日本国内の取引で相手方が日本の企業であれば、裁判所が判断を示したのですから、これでも問題はそれほどないかもしれません。予測可能性がありますから。

しかし、相手方が海外の企業であったら…

契約を結んだ相手方との間に誤解が生じているのです。

将来、誤解が誤解を生んで、相手方との関係がこじれたら?

考えるのも恐ろしくありませんか?

このようなことがいくつもある英文契約の理解の心構えとして必要なものを言えば、

  1. 日本語に「直訳」すれば理解できるという「盲信」を捨てる。
  2. 英文契約は、少なくとも英米契約法を理解したうえで、読み込む。

が最低限のものではないでしょうか。