
子供のいないご夫婦の相続
しかし、誰が相続人となるかは民法で定められており、子供がいないからといって配偶者が全財産を相続できるとは限りません。
場合によっては、思ってもみなかった相続人が現れて、配偶者の生活に支障をきたしてしまうケースも少なくありません。
そこで今回は、
- 子供のいない夫婦で配偶者の他に相続人がいるケース
- 他の相続人よりも配偶者に優先的に相続させるための方法
- 子供のいない夫婦の相続で不安がある場合はどうすればいいのか
といった問題について、見てみましょう。
お子様がいらっしゃらないご夫婦で、一方が先立たれた後の相続が気になる方のご参考になれば幸いです。
子供がいないご夫婦の一方が先立たれたとき、配偶者だけが相続人となる場合もあります。
しかし、確率的にそうなるケースは少なく、多くの場合は配偶者の他にも相続人が存在します。
それでは、配偶者の他にいったい誰が相続人となるのでしょうか。
誰が相続人になるかは民法で定められており「法定相続人」といい、具体的には、亡くなられた方(被相続人)の配偶者の他に子、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹がそれに該当します。
法定相続人のなかでも、被相続人との関係に応じて優先順位が定められています。
そこで、ケースごとに親族のなかの誰が相続人となるのかをご説明します。
被相続人の配偶者は、常に相続人となります(民法第890条)。
常に相続人となるというのは、他に関係者がいるか否かにかかわらず、配偶者がいれば必ず相続人になるという意味です。
配偶者以外に子、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹がいればその人と配偶者が相続人となります。
配偶者は常に相続人ですが、子、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹が相続人となると、そこには優先順位があり、だれが相続人になるかが決まります。
では、その優先順位を見ていきましょう。
配偶者を除く法定相続人のなかで最優先に相続人となるのは、被相続人の子です。
被相続人に配偶者と子がいる場合は、配偶者と子のみが相続人となり、父母や兄弟姉妹は相続人となりません。
相続開始前に子が先に死亡している場合は、その直系卑属(被相続人の孫、ひ孫)が代わりに相続人となります(代襲相続)。
次に優先順位が高い法定相続人は、父母や祖父母などの直系尊属です。
被相続人に子がおらず、父母がいる場合は父母が相続人となります。父母が既に死亡していて祖父母がいる場合は、祖父母が相続人となります。
配偶者もいる場合は、配偶者と直系尊属が相続人となります。この場合、兄弟姉妹は相続人となりません。
優先順位が最も低い法定相続人は、兄弟姉妹です。
被相続人に子も直系尊属もいない場合に限り、兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹に被相続人よりも先に亡くなっている方がいる場合には、甥・姪が相続人になります(代襲相続)。
配偶者もいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
結局、子供のいない夫婦の相続で配偶者のみが相続人となるケースは、被相続人に子(や孫、ひ孫など)も直系尊属(両親、祖父母)も兄弟姉妹(及び甥姪)もいない場合だけです。
それでは、配偶者以外にも相続人がいるケースでの相続割合を1つずつ具体的にみていきましょう。
子供のいない夫婦の一方が先立ったとき、被相続人の親がご健在であれば配偶者と親が相続人となります。
この場合の相続割合は、次の通りとなります。
- 配偶者が3分の2
- 親が3分の1
両親とも生きている場合は上記3分の1を按分しますので、次の通りとなります。
- 父親が6分の1
- 母親が6分の1
両親とも死亡していて祖父母が生きている場合は祖父母が、両親も祖父母も死亡していて曾祖父母が生きている場合は曾祖父母が相続人となります。
被相続人の直系尊属が全員死亡していて兄弟姉妹がいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
この場合の相続割合は、次の通りとなります。
- 配偶者が4分の3
- 兄弟姉妹が4分の1
兄弟姉妹が複数人いる場合は、この「4分の1」を均等に分割します。
兄弟姉妹が死亡している場合でも、その子(被相続人の甥・姪)がいる場合はその子が代襲相続します。
ただし、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りなので、甥・姪も亡くなっている場合は甥・姪に子がいても相続人となりません。
法定相続人としての「子」は、被相続人の死亡時に婚姻していた夫婦間の子に限られません。被相続人に前婚での子がいる場合はその子が第1順位の相続人となります。
また、被相続人が認知した子や養子縁組をした子も同様に第1順位の相続人となります。
これらの子は被相続人の配偶者と共に相続人になります。
2、他に相続人がいても、配偶者に優先して相続させる方法
配偶者の他に相続人がいるとしても、特段の交流がなかった場合は遺産を渡すことに納得できないこともあるでしょう。 また、配偶者が高齢の場合は、今後の生活を守るためにも、少しでも多くの遺産を取得したいところです。
配偶者に優先して相続させるためには、以下の方法を活用すると良いでしょう。
遺言書がない場合、相続人が相続するためには、相続人全員による遺産分割協議を行う必要があり、その協議の中では基本的に前項の(2)でご紹介した法定相続分に沿って話し合いがなされます。
しかし、遺言で遺産分割方法を指定しておけば、遺言書による指定が優先されます。したがって、配偶者により多くの財産を遺したいとお考えの場合には、そのような内容の遺言書を作成しておくべきです。
ただし、父母や祖父母などの直系尊属には遺留分が法律の定める権利としてあるので、遺言を作る際には注意が必要です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障された相続分のことで、これは遺言によっても奪うことはできません。遺言によって遺留分を侵害された法定相続人は、財産を得た人に対して遺留分侵害額請求を行って金銭の支払いを得ることができます。
つまり、被相続人が全ての財産を配偶者に相続させる内容の遺言書を残した場合には、法定相続人である直系尊属が遺留分侵害額請求をしてくる可能性があり、その請求がなされた場合には遺留分相当額を金銭で支払う必要があるということです。
遺留分は、配偶者と直系尊属が相続人となる場合には、法定相続分の2分の1です。
配偶者と被相続人の両親が相続人であり、被相続人に6,000万円の遺産があるという事例を考えてみましょう。
この場合、両親それぞれの遺留分は、
500万円(=6,000万円×法定相続分6分の1×遺留分2分の1)
となります。
後の相続トラブルを防ぐためには、遺留分を侵害しないように気をつけて遺言書を作成する方がよいでしょう。
なお、兄弟姉妹及び甥姪には遺留分はありませんので、相続人が配偶者と兄弟姉妹のときは、配偶者に全ての財産を相続させる内容の遺言を残しても、遺留分の問題は発生しません。
子供のいない夫婦で残される配偶者の生活を守るためには、居住用の不動産を遺贈又は生前贈与することも一つの方法です。
以前は、持ち家を遺贈、生前贈与することにはデメリットもありました。
配偶者に対する遺贈や生前贈与はどの財産についても、遺産の先渡しとして取り扱われることが原則で、具体的な相続分が計算されていました。(特別受益の持ち戻し)。
遺産の先渡しとして扱われないようにするためには、被相続人が持ち戻し免除の意思表示を行っておく必要がありました。
そのような意思表示がなされていることは殆どなかったため、遺産分割の際に配偶者が新たに取得できる財産が少なくなり、その後の生活費を確保することが難しくなる場合が多く、問題視されていました。
これについて、相続法の改正によって、今では婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用建物やその敷地を生前贈与または遺贈する場合に限り、持ち戻し免除の意思が推定され、原則として遺産の先渡しとして取り扱われないことになりました。
つまり、配偶者としては持ち家を遺贈や生前贈与で取得しつつ、遺産分割の際には持ち家を除いたあとの遺産を法定相続分に沿って取得するということが可能になったわけです。ただし、遺留分の計算においては持ち戻し免除はされません。
また、遺贈や生前贈与をする場合は、税金も確認しておきましょう。
生前贈与の場合には贈与税が課されます。ただし、基礎控除100万円のほか、配偶者特別控除として最大2,000万円の控除が受けられる場合があります。
遺贈の場合には、贈与税ではなく相続税が課されます。配偶者については、相続によって得た総額のうち1億6,000万円か法定相続分相当額のいずれか多い方までは相続税がかかりません。 そのため、価値の高い不動産を遺贈または生前贈与することを検討されている場合には、遺贈を選択されると良いでしょう。
他の財産や相続人によって適切な方法は変わってきますので、ご自身の場合にどの方法が適切かについては専門家にご相談ください。
なお、遺贈のかたちをとる場合は、被相続人の死亡後に確実に手続きが行われるように、遺言書のなかで遺言執行者を指定しておくことが望まれます。
被相続人が配偶者を受取人とする生命保険をかけていた場合、その死亡保険金は遺産(相続財産)ではありませんので、遺産分割の対象にはなりません。
つまり、原則として、配偶者は死亡保険金を満額受け取った上で、さらに遺産を法定相続分に応じて取得することができます。
死亡保険金があれば、生前贈与をせず、遺言書も様式不備などで無効となった場合でもまとまった現金を得ることができますので、配偶者はずいぶん助かるでしょう。
例えば、遺産として3000万円の持ち家と900万円の預貯金があり、配偶者と父母で法定相続分に応じて遺産分割をする場合、法定相続分に従って遺産分割をすると、配偶者は2600万円(法定相続分3分の2)の遺産しか取得できません。
この場合に配偶者が持ち家を取得するためには、差額の400万円を代償金として父母に支払わなければなりませんし、相続税やその後の生活のための現金を相続から得ることができません。
こんなとき、死亡保険金があれば、そのなかから代償金を支払うこともできますし、相続税の支払いやその後の生活の資金となるでしょう。
なお、死亡保険金には非課税枠はありますが相続税が課されますので注意しましょう。
以上の対策を何もとっていなかった場合には、被相続人名義の持ち家があれば、配偶者居住権によって配偶者の生活を守ることも方法の1つです。
配偶者居住権とは、配偶者が持ち家の所有権を相続しなくても、相続開始時にその持ち家に居住していた場合はその後も住み続けることができる権利のことです。
上記のケースであれば、不動産の所有権は被相続人の父母に相続してもらい、配偶者は不動産については配偶者居住権のみを取得するとすれば、預貯金を相続できるようになりますし、所有権と配偶者居住権の評価次第では父母に対して代償金を求めることもできる可能性があります。
配偶者居住権には、期間を定めなければ終身被相続人名義だった持ち家に住み続けることができる「配偶者長期居住権」と一定の期間だけ住み続けることができる「配偶者短期居住権」の2種類があります。
配偶者長期居住権を得るためには、遺産分割協議または遺贈、死因贈与によって権利を得る必要があります。
配偶者居住権を遺贈や死因贈与されず、遺産分割協議や調停、審判で権利を取得できない場合でも、配偶者は短期居住権を有していますので、相続開始から6ヶ月間または遺産分割が終了するときのどちらか遅い方まで配偶者は持ち家に住み続けることができます。
つまり、どのような場合でも最低6ヶ月間は、配偶者が持ち家に住み続ける権利があります。
子供のいない夫婦で一方に先立たれた配偶者は、ご自身が亡くなったときの相続についても考えておくことをおすすめします。
既にご説明したとおり、子供がいなければ父母または祖父母が、父母または祖父母もいない場合は兄弟姉妹や甥・姪が相続することになります。
これらの人たちに相続してもらいたい場合は問題ありませんが、特段交流のない親族よりも、相続人ではなくてもお世話になった第三者に財産を渡したいという場合もあるでしょう。
そのような場合には、遺言書を作成しておきましょう。
遺贈とは、遺言によって自分の財産を与えることをいいます。遺贈する相手は相続人以外の第三者でもかまいません。
財産の全部または一定割合を遺贈することもできますし(包括遺贈)、特定の財産のみを遺贈することもできます(特定遺贈)。
遺言書を作成してお世話になった人に財産を遺贈しておけば、相続人が遺産分割を望んでも遺贈の方が優先されます。
遺言書があっても相続人が法定相続分に則った遺産分割を主張するなどして、遺言書で指定した内容が実行されないおそれがあります。
そんなときのために、遺言書の内容を実現するための手続きを行ってくれる「遺言執行者」を遺言書の中で指定しておくとよいでしょう。
気を付けたいのは、遺言書の作成にはいくつかの決まりがあり、正しく作成しなければ遺言書が無効となってご自身の意思が相続に反映されなくなってしまうことです。
遺言書を作成される際には、専門家にご相談され、有効な遺言書を作成しましょう。