著作権の登録のこと
自身が創作したモノの表現(小説や楽曲、写真など)を保護する権利としてよく知られていますが、これらの著作物を創作した方は、法律上、原始的に(当然に)著作権を取得するので、著作権を保護する目的で何らかの手続きをとる必要はありません。
同じく知的財産権とされている権利の中でも、発明を保護する権利である「特許権」やデザインを保護する権利である「意匠権」、ロゴ等を保護する権利である「商標権」は、特許庁への登録が必要であり、著作権とは大きく異なります。
また、本来であれば特許権等が取得できたのに、著作権の登録申請をしてしまったがために新規性を欠き(特許法第29条等)、特許権等が取得できなくなってしまう場合もありますので、この点に関しましては申請前に必ず弁理士や行政書士等の専門家から十分に説明を受けておいて下さい。
そもそも、「特許権」「意匠権」「商標権」の管轄省庁は経済産業省なのに対し、「著作権」の管轄省庁は文化庁になります。
著作権は、表現自体を保護する権利ですので、その対象が目に見えない物である事もあります。例えばAさんがBさんに自作の曲の著作権を譲渡したあとで、Cさんにも同じように著作権を譲渡してしまった場合(二重譲渡の場合)、曲という目に見えない物の権利が現在、誰に帰属しているのか分からなくなる場合があります。
そこで、著作権法は、こうした事態を回避するために第75条以下に次のような登録制度を定めています。
この申請は、【文化庁長官官房著作権課】へ申請することになります(プログラムの著作物に関しては、例外として【一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTiC)】への申請となります)。
(実名の登録)
第七十五条 無名又は変名で公表された著作物の著作者は、現にその著作権を有するかどうかにかかわらず、その著作物についてその実名の登録を受けることができる。
2 著作者は、その遺言で指定する者により、死後において前項の登録を受けることができる。
3 実名の登録がされている者は、当該登録に係る著作物の著作者と推定する。
著作権には保護期間があり、その著作物を創作した著作者の死後50年間は、著作権を保護すると規定されているのですが、例えば、ペンネームを使って小説を書いている方が、ペンネームで作品を公表した場合は、公表後50年間しか著作権が保護されません。
しかし、この「実名の登録」をしておけば、原則どおり、著作者の死後50年間、著作権が保護されることになります。
(第一発行年月日等の登録)
第七十六条 著作権者又は無名若しくは変名の著作物の発行者は、その著作物について第一発行年月日の登録又は第一公表年月日の登録を受けることができる。
2 第一発行年月日の登録又は第一公表年月日の登録がされている著作物については、これらの登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があつたものと推定する。
著作物を最初に発行または公表した年月日は、これを登録することができます。
「実名の登録」の箇所でも説明したとおり、ペンネーム等(「変名」といいます。)で公表された著作物は、公表後50年間著作権が保護されますので、この登録をしておくことによって、公表された年月日の詳細を登録する事できます。
(創作年月日の登録)
第七十六条の二 プログラムの著作物の著作者は、その著作物について創作年月日の登録を受けることができる。ただし、その著作物の創作後六月を経過した場合は、この限りでない。
2 前項の登録がされている著作物については、その登録に係る年月日において創作があつたものと推定する。
プログラムの著作物の著作者は、当該プログラムが創作された年月日の登録をすることができます。
この登録手続きは、文化庁ではなく、【(SOFTiC)】への申請になり、通常の申請以上に専門的な作業が必要になります。
(著作権の登録)
第七十七条 次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
一 著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)若しくは信託による変更又は処分の制限
二 著作権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は著作権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
最初の例に挙げたように、Aさんが自作曲の著作権をBさんとCさんに譲渡してしまった場合、どちらに著作権が帰属しているのか争いになる事があります。こうした場合、著作権法は第77条に著作権が移転した事を登録しておかないと、登録した人へ対抗できない、と規定しています。(不動産の登記のようなものです。)
つまり、上の事例では、AさんからBさん、Cさんがそれぞれ著作権を譲渡されていますが、Cさんのみこの登録手続きを行っており、Bさんは登録していなかったとしたら、BさんはCさんに対抗できない、という事になるのです(民法の考え方である背信的悪意者の理論は勿論、適用されますが)。
アメリカでは著作権ビジネスがGDPの5%を占めるに至っているといわれています。今後、日本においても著作権契約に関する様々なトラブルが予想されていますので、著作権や著作隣接権(演奏権やレコード制作会社の権利等)の移転や質権を設定して契約した場合等は、かならずこの登録手続きを行っておく事をお勧めします。
(出版権の登録)
第八十八条 次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
一 出版権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)、変更若しくは消滅(混同又は複製権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
二 出版権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は出版権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
2 第七十八条(第三項を除く。)の規定は、前項の登録について準用する。この場合において、同条第一項、第二項、第四項、第八項及び第九項中「著作権登録原簿」とあるのは、「出版権登録原簿」と読み替えるものとする。
出版権とは、その名のとおり、著作物を出版できる権利のことをいいますが、出版権者は著作物を複製する独占的・排他的な権利をもつ、非常に強力な権利を持っています。
例えば、ある小説家Aと出版会社Bとの間でAの作品を出版する出版権設定契約を結んだとします。しかし、Aは出版会社Cとの間にも出版権設定契約をして出版権の登録を行ってしまった場合、この出版権の設定等の登録を受けているCがBに対して優位に立ち、出版差し止め請求等をされることがあります。
出版権に関するトラブルは、経済的にも非常に大きな争いに発展する事がありますので、出版権に関する契約を結んだ場合、必ずこの登録を受けることをお勧めします。
著作権の登録申請をする際には、申請書の他、必ず著作物の明細書を添付する必要があります。これは、申請書類において最も重要な書類になります。
著作物は陶芸作品や建築作品といった有体物ばかりではありませんので、書面で他の著作物との相違点を明確にし、その特徴を説明しなくてはなりません。
しかも400字と字数制限があるため、この少ない文字数で当該著作物の特徴を説明するのはなかなか難しくどこまで正確かつ詳細に明細書が書けるかが重要といえます。
なお、文化庁への登録申請業務は、行政書士の専管業務となっています。