
英文契約書が必要な国際取引
大企業だけではなく、特に中堅企業の国際取引が増加する傾向にあります。
経済がグローバル化し、またネットの普及によって国際取引のハードルが下がったことが要因といえるでしょう。
少子高齢化などによって国内市場が縮小傾向にある反面、日本国外では需要を見込めることなども影響していると考えられます。
企業が国際取引を行う際には「英文の契約書」が必要と言えるでしょう。 英語は国際取引において公用語のように使用されていますし、海外ではトラブルを避けるために契約書を作成するのが当然とされるからです。
たとえ相手国が契約書文化を持たなくても、トラブルを回避したり発生したトラブルに対応したりするには、英文契約書が必須といえるでしょう。国際取引を行うとき、相手方から契約作成を求められなくても、こちらから英文契約書を提案すべきといえます。
以下では国際取引の具体例や契約書を作成しないデメリットやリスクを見ていきましょう。
典型的な国際取引としては、例えば次のようなものがあります。
① 貿易(売買)
貿易は、いわゆる物品の売買です。外国企業との間で製品や商品を売ったり買ったりする取引をいいます。
貿易取引には特有のルールが適用されるケースがありますので、安全に進めるためには事前に正確な理解を得ておく必要があります。
② サービスの取引
物ではなく各種のサービスを国際的にやり取りする取引です。役務提供や情報提供などが該当します。
③ 国際技術移転
国際技術移転とは、ある企業が国内にもっている技術を海外へ移転する国際取引です。たとえば人的能力、機械設備や生産流通の体系などが取引の対象となります。
日本の企業が国際技術移転する場合、主なターゲットは発展途上国です。 具体的には「ライセンス契約」や「共同開発契約」を締結して対応を進めるのが一般的です。
④ インターネット取引(電子商取引)
インターネットを使った国際取引です。
小規模なものでいうと海外企業からのネット通販やオークションサイトを利用した輸入なども国際取引といえます。
インターネット取引はハードルが低いですが、個人情報の取扱いや電子決済などについての専門的な知識が必要になり、企業が安易に手を出すと危険な場合もあります。
またネット取引については歴史も浅く、各国にて頻繁に法改正やルールの整備が行われています。常に最新の知識を持って対応する必要がある取引形態です。 日本では経済産業省が「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」を公表しているので、関連する企業はご参照ください。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ec/110627jyunsoku.html
国内取引の場合、日本企業同士ではあえて契約書をつくらずに取引に入ってしまうケースもさほど珍しくはないのが実情です。 しかし国際取引では、取引を始める前に、必ず英文契約書を作成すべきといえます。それでは、英文契約書を作成しないリスクを見てみましょう。
① そもそも取引を進められない
国際取引では契約書を用意することが、一般的に当然とされています。相手国が契約書文化であり、それに合わせて英文契約を用意するケースも多いでしょう。
契約書を作成しないと、そもそも取引を進められないケースもあります。
国際的な新規事業に参入するには契約書の作成が必須といえるでしょう。
② トラブルが発生しやすくなる
契約書を作成するときには、なるべくトラブルが起こらないように事前に予防手段を想定して、その内容を反映します。
ところが契約書がないと、事前に定めたトラブル予防手段が明確ではありません。お互いの認識が一致しないことで大きな紛争が起こる可能性も高く、予防手段もないまま拡大していくケースが多々あります。
③ トラブルを解決する指針がない
契約書には、万一トラブルが起こった場合の解決方法も記載するものです。
契約書がなかったら、そういった解決の指針が明らかではありません。トラブルが起こると拡大する一方になるリスクが発生します。
特に当事者企業の本国が異なる場合、お互いの法制度も違うのが通常です。
トラブルが起こったときにどちらの法律で対応するのか、どこの裁判所で訴訟を行うのかなども明らかになりにくい問題があります。
英文契約書を締結する際には、以下のような点に注意すべきでしょう。
① 法制度の違い
企業の所属する国が異なる場合、適用される法律の内容が大きく異なるケースがよくあります。日本企業同士のように「バックボーンが同じ」というわけにはいきません。
たとえば売買の基本的なルールが日本と異なる国もあるでしょう。
安全に国際取引を進めるには、国による法制度の違いや相手国の法律の内容を正しく理解しておく必要があります。
② 準拠法
準拠法とは、どちらの法律を適用すべきかという問題です。
相手国の法律が日本法と異なる場合が多いので、トラブルが発生したケースに備えて基本的な準拠法を定めておかねばなりません。
日本企業としては、もちろん日本法を適用する方が有利になります。相手企業と話し合い、できる限り準拠法を日本法としましょう。
なお準拠法が外国法の場合、外国法の内容を熟知しておかないと極めて大きな不利益を受ける可能性もあります。この意味においても英文契約書作成においては、専門家によるサポートが必須です。
③ 国際取引ならではのリスク
国際取引をする場合、相手国の政情が不安定なケースも珍しくありません。
契約締結時は問題なくても、政治体制の変更によって契約が打ち切りとなるリスクもあります。また為替変動によって利益が失われてしまうリスクも発生します。
英文契約書を作成する際には、こうした「日本企業同士では発生しそうにないリスク」にも注意しなければなりません。
④ 各条項内容の確認
契約書を作成するとき、すべての条項をしっかり理解した上でサインしなければならないのは当然です。十分に確認しないでサインしてしまうと、後に思ってもみなかった不利益を受ける可能性があります。
英文契約書は、ただでさえ日本語の契約書よりわかりにくいだけではなく、日本企業同士のものよりも長文になるケースが殆どです。各条項確認が必要なのにハードルが上がる点に十分注意が必要です。
⑤ 双方の利益・不利益のバランスの考慮
契約を締結する際には、当事者の双方にとって利益となるのが理想です。
一方だけが利益を得て他方が不利益を受けるような不公平な内容では、取引は長続きしません。
英文で契約書を作成するときにも、双方の利益や不利益のバランスに着目すべきです。自社が不利益を受けないようになっているか、相手企業にも利益やリスクヘッジの手段が保たれているかなど確認してみてください。 国際取引における英文契約書を作成する際には、国内取引以上に専門的な知識やノウハウが必要となるものです。法律知識だけではなく税務対応が必要となるケースもあります。安全を期するため、専門家による契約書レビューを受けるべきでしょう。
英文契約では、当事者企業が自主的に十分なチェックを行うのが困難です。
安全に取引を進めるには専門家による「リーガルチェック」を受けておくようおすすめします。リーガルチェックとは、専門家の観点から法的に契約書に問題がないか、改善すべき点はないかなど確認する作業です。
以下で英文契約書作成の際、リーガルチェックが必要な理由をみてみましょう。
① ひな形を使えない
英文契約書を作成する際には「ひな形」や「テンプレート」を使えないという問題があります。
日本企業同士で契約書の場合には、「ひな形」を利用できる場合も多いです。
ネット上で探してみると似たような契約書のひな形が簡単に見つかりますし、当事者名などを適当に変えて使っている企業も少なくありません。
一方、英文契約書の場合、必ずしも同様にはいきません。そもそもネットでは適切な英文契約書のテンプレートを見つけにくいですし、個別の契約における相違も非常に大きくなるためです。
ひな形を使えない以上、自分たちで契約書を作成しなければなりません。不備も発生しやすいので、必ずリーガルチェックを受けておくべきでしょう。
② 翻訳だけでは対応できない
相手企業から英文契約書を示されたとき、翻訳だけ依頼してチェックは自社にて行おうとする企業もあります。
しかし翻訳だけをみても、内容が明らかになっているとは限りません。契約書には専門用語も多数含まれており、ニュアンスや意味合いが和訳と異なるケースも多いためです。
しかし、もっとも注意すべき点は、日本法を基礎として英文契約を「むりやり」理解してしまうことです。
あいまいな知識に基づき、正確に意味を理解しないまま契約書にサインすると、後に大変な不利益が発生するリスクがあります。
翻訳に頼ると高い代償を払う結果になりかねないので、必ず事前に専門家によるレビューを受けておくべきでしょう。
③ 紛争予防方法を盛り込む
契約書を作成する大きな目的として「紛争リスクの低減」があります。
そのためには契約書作成の時点で「どういったリスクが想定されるか」「紛争を避けるためにはどうしたらいいか」など、意識しなければなりません。
ところが当事者企業が契約書の中身を見ても、具体的に将来どういった紛争が発生する可能性があるのか見極めるのは困難なものです。トラブル回避を意識しないで単に契約書を作成しても、作成する意義が半減してしまいます。
効果的にトラブルを回避するには、専門家によるリーガルチェックが必須といえるでしょう。
④ 準拠法を把握する
英文契約書を作成する際には「準拠法の把握」がとても重要です。
紛争が発生したときにどこの国の法律が適用されるかわからない状態では、リスクが高すぎて取引に入るべきではありません。
準拠法については通常、契約書に定めがなければ法律によって決まります。
一方、契約書に定めがあれば、基本的に契約書に定めた法律が適用されます。日本企業にとっては日本法を準拠法とするのが有利です。 しかし、契約書に「準拠法を日本法とする」と書いていても、場合によってはコモンロー(英米法)の考え方が適用される可能性もあります。
リーガルチェックを受けておかないと準拠法について正確に理解できず、リスクが高くなってしまいます。
準拠法を把握したチェックをするために、専門家によるリーガルチェックの過程が必要不可欠といえます。
⑤ 取引の個性を理解する
国際取引にはそれぞれ個性があります。
たとえネット上や本などで契約書のひな形を発見しても、個性の反映されていないテンプレートをそのまま適用するのは極めて危険です。
企業の希望や取引の態様などの特徴を把握した専門家によるレビューを受けておけば、個性を反映できてリスク回避に効果的な契約書が完成するものです。
取引の個性を反映したレビューを受けるため、専門家によるヒアリングを受けられるリーガルチェックを依頼しましょう。
⑥ 専門的な観点からのチェックする
国際取引を行う当事者企業は通常、法律の専門家ではありません。
専門知識をもった人員がいなければ、契約書チェックは、残念ながら「素人判断」になってしまいます。
残念ながら、専門家でない方が英文の契約書を確認しても、契約内容を正確に理解するのは困難でしょう。
相手から契約書を提示された場合、意味を理解しないままサインしてしまうとリスクがあります。
一方、こちらから契約書を提示する場合、和文契約書を英語に直しただけでは意味をなさないケースも少なくありません。相手企業からサインを拒否されたり大幅な改定が必要となって長期間がかかったりするリスクも発生します。
スムーズかつ安全に契約書を作成するため、専門家によるリーガルチェックが必要でしょう。
⑦ 紛争解決の指針を明らかにする
契約書を作成する大きな目的の1つが「紛争解決の指針」の明確化です。
万一、トラブルが発生したとき、どのようにして紛争を解決するのか、どちらが危険を負担するのか、解除や損害賠償できるのはどういったケースなのかなどを契約書にて明らかにしなければなりません。
紛争解決の指針を理解しないまま取引に入るのは極めて危険といえます。
専門家による契約書のリーガルチェックを受けて、あらためてどういった方法で紛争解決をはかるべきか正確に理解しておくべきでしょう。
⑧ 専門的への相談が条件となる契約
英文契約書では、後で「内容がわからなかった」などと言わせないために「専門家に相談して内容を正しく理解した」と表明させる条項が入っているケースもあります。
こういったタイプの契約の場合、専門家に相談してレビューを受けないと締結ができません。いうまでもなくリーガルチェックが必須です。
⑨ 企業の利益を意識したアドバイス
国際取引に入るときでも、自社の利益確保が最重要です。
ところが英文契約書に相手国が一方的に有利な内容となっているケースも多々あります。
不公平な内容となっていることに気づかなければ、大きな不利益を受けてしまいます。
専門的な知識をもっている専門家によるレビューを受ければ、自社に不利益になる契約内容は拒否又は修正できます。むしろ、自社が有利になるようにアドバイスも受けられるものです。
企業の利益を意識したドバイスを受けるためにも、不十分な知識で対応するのではなく、専門家によるリーガルチェックを受けておく必要があるでしょう。
国際取引では国内取引以上に専門的な内容となりがちであるため、企業法務に詳しい専門家による契約書レビューが重要です。自己判断すると、多大なリスクも発生しえます。これからのグローバル社会へ対応するためにも、専門家によるリーガルチェックを活用しましょう。