
紛争解決条項のこと(1)
最近、雑用が重なり忙しかったので、コラムを上げるのが疎かになっていました。
今回のコラムでは、紛争解決条項について考えてみたいと思います。
1.紛争解決条項とは
紛争解決条項とは、契約書に盛り込まれる条項の一つで、契約の当事者間で将来紛争が発生した場合に、どのように解決するかを定めるものです。
具体的には、裁判所での裁判(訴訟)や、仲裁機関での仲裁など、解決方法を事前に取り決めておくことで、紛争発生時の混乱を避け、スムーズな解決を促すことを目的としています。
契約書を作成するのは、将来の紛争の可能性を予防する、又は紛争が起こった際にはその解決の筋鞭を明確にしておくものですから、紛争解決条項は必須のものと言えます。
日本国内での取引で日本語で作成する契約書は、裁判による解決を図るものが多いです。
例えば、次のような条文をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
甲及び乙は、本契約から生じた紛争について、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
これは、日本では裁判所が一定程度の信頼を勝ち得ているからであると思われます。
しかし、知的財産権に関係する契約書は、仲裁による解決を図るものも多く見ることができます。
例えば、次のような条文です。
本契約に起因または関連する甲乙間の一切の紛争は、日本知的財産仲裁センターの仲裁手続き規則に基づく仲裁に対し、その仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京とする。
なぜ、知的財産権に関係する契約書で仲裁を選択する例が多くみられるのでしょうか。
それは、裁判による解決よりも仲裁によるものの方にそれなりのメリットがあるからです。
次にそのメリットを確認してみましょう。
2. 仲裁のメリット
裁判ではなく仲裁を選択するメリットとして、①非公開性、②専門性、③迅速性、④比較的安価な費用、の4つがあるといわれています。
それぞれについて、見ていきましょう。
① 非公開性
営業秘密や発明に関する対価など、公開を避けたい事案に関し、公開を原則とする裁判手続きでは、インハウス制度など特別な措置は選択できる余地はあるものの、公開されるリスクが伴います。
一方、仲裁においては、非公開で行われるものであり、仲裁の申立てがあったことも、手続きやその結果についても、秘密厳守で紛争解決を進めることができます。
② 専門性
仲裁では、1名から3名の仲裁人を、数多くの候補者の中から選任するのですが、それぞれの専門分野の候補者を選ぶことができます。
一方、裁判においては、裁判官が判示をするのですが、裁判官は法律の専門家ではあっても、特定の分野における専門家というわけではなく、紛争の分野の専門知識を納得いただくために多大な労力を必要とすることが良くあります。しかも、専門知識を伝えても理解されるかの保証は全くありません。
③ 迅速性
裁判では、最近は解決にかかる期間が短くはなりましたが、専門知識を裁判官に納得いただくための書面を何度も提出しなければならなかったり、裁判官に専門知識がないために判決内容が不十分で、上級審に訴えなければならなかったり、意外に時間がかかる場合があります。
一方、仲裁においては、専門の素養がある方が仲裁人に選任される傾向が高いので、不必要な努力が必要なく時間の節約になります。また、仲裁の場合は、仲裁の判断に服することとすることが殆どなので、1回で解決することができます。
④ 比較的安価な費用
裁判では、一審ごとに訴額に応じた訴訟印紙を貼付して裁判所に納めるほか、弁護士に対する費用がかかります。最近はタイムチャージ制を採用している弁護士も多いので、裁判期間が長引けば、訴訟費用は高価になりがちです。
一方、仲裁においては、仲裁人に支払う費用は高めですが、仲裁機関に対する費用は低めですし、解決に要する期間は短めですので、弁護士に支払う費用は比較的安価な傾向があります。
しかし、そういう傾向があるというのであって、必ずそうだというわけではありません。 やはり、事案ごとに検討すべきでしょう。
⑤ その他
その他の言及すべき事項として、仲裁には柔軟性とも呼べる特長があります。
これは、あくまでも当事者間で合意した場合に採用できるのですが、仲裁の途中から調停に、調停の途中から仲裁に戻る、といったこともできます。
調停とは、和解のための斡旋(あっせん)手続きであり、当事者間で勝敗の白黒をつけるのではなく、お互い譲歩して将来に向けた解決を図るものです。
勝敗の白黒をつけるのでは、お互いが傷つくこともあります。 そのような場合は、お互い譲れるところは譲り合い、共存共栄を図るということもあり得ます。そのような際に採用されるのが調停です。
なお、ここでいう調停は、裁判上の調停ではありません。裁判上の調停は、裁判上の和解と同様に執行力を持ちますが、この場合の調停は、お互いの自発的な合意事項の履行により解決を図るものです。
もちろん調停がうまくいかないこともありますので、その場合は、仲裁に戻って、仲裁判断により勝敗の白黒をつける形をとることもできます。
3.仲裁を採用するには
仲裁を採用するにはどのようにしたら良いのでしょうか。
仲裁は、当事者間の合意がなければ、採用はできません。
そこで、契約書の始めから仲裁条項を設け、事前に合意しておく方法があります。
なお、仲裁条項には、仲裁機関、仲裁規則、仲裁地を記載する必要があります。
仲裁の合意があれば、必ず裁判よりも先に仲裁を経ることが双方に義務づけられます。万一、契約に違反して提訴したとしても、防訴抗弁により門前払いとなり、訴訟リスクを回避することができます。
4.まとめ
今回の確認事項をまとめてみましょう。
① 紛争解決方法には、大きく裁判と仲裁のふたつがある。
② 仲裁は、裁判と比べ、非公開性、専門性、迅速性、比較的安価な費用、柔軟性といったメリットがある。
③ 仲裁を選択するには、合意が必要。
④ 仲裁を選ぶ場合、契約書には仲裁条項を設ける。
いかがだったでしょうか。
当事務所に契約書作成を依頼される場合には、案件によっては仲裁条項を設けることをご提案させていただきます。
なお、実際に紛争が生じた場合は、当事務所が提携している弁護士事務所をご紹介することになります。