死後事務委任契約のこと
少子高齢化や核家族化になり、おひとりさまや身寄りがあっても頼ることができない人が増えています。自分の死後に葬儀やお墓、住まいはどうなるのか。そうした不安を解消する手段として、死後の事柄について第三者に依頼する死後事務委任契約があります。
今回は、死後事務委任契約について見ていきましょう。
死後事務委任契約とは、あらかじめ依頼者(以下「委任者」といいます。)の希望にそって死亡後のさまざまな手続きを行ってくれる者(以下「受任者」といいます。)を契約によって決めておく生前契約のことです。
死後事務委任契約では、幅広い内容を依頼することができます。例えば、委任者が亡くなったあとの葬儀や、お墓の管理、行政への届出、住居の明け渡し、親族などの関係者への連絡、医療費や施設利用料の清算、ペットの世話、SNSアカウントの削除など多岐にわたり、希望に合わせて細かく決めることができます。
亡くなったあとのことを手当するものとして思い浮かぶのが「遺言」です。しかし、遺言に記載することにより法的な拘束力を持たせうる事項は、相続分の指定などの相続に関する事項や遺言執行者の指定などの身分関係に関する事項など限られています。
そのため、遺言では「樹木葬にしてほしい。」とか「スマホやパソコンの中身を見ずに消去してほしい。」といった希望を遺言に記載しても法的な拘束力はありません。
一方、死後事務委任契約では、そのような希望を確実に叶えることができます。そのようなご希望がある場合は、死後事務委任契約を結ぶ必要があります。
今回は、死後事務委任契約について見ていきましょう。
死後事務委任契約が必要となる場面は、例えば次のようなものがあります。
- おひとりさまで、頼れる人がいない
- 家族は高齢で頼めない
- 家族と絶縁している
- 家族や親族に負担をかけたくない
- 内縁関係や事実婚である
- 家族と自己との希望が異なる
亡くなったあとのことを頼める人がいない場合、自治体などが事務として行ってくれますが、自治体などがやってくれることは限られています。
また、葬儀や行政への届出、遺品の整理などの死後事務を行うには手間や時間がかかります。そのようなことを高齢の家族やすでに付き合いのない家族に頼むことは難しい場合も多いです。
さらに、事実婚や内縁関係の場合は、死後事務を行うにあたって、残念ながら、戸籍上のつながりがないことを理由に手続きを断られることもあります。
ご家族と希望が異なる場合は、言うまでもないでしょう。自分の希望を実現するには、選択肢として死後事務を委任しておくことが考えられます。
これらを考慮すると、スムーズに手続きを進めるためにもあらかじめ死後事務委任契約を締結して準備をしておくことが望ましいと言えるでしょう。
死後事務委任契約で委任できることは、次のとおり多岐にわたります。
依頼者が亡くなって真っ先に生じる主な手続きで死後事務委任契約の内容とすることができるのが、次の4つです。
- 遺体の引き取り
- 葬儀や火葬に関する手続き
- 埋葬、お墓に関する手続き
- 供養に関する手続き
行政手続きに関する主なものとしては、以下の3つがあります。
- 健康保険証、介護保険証などの返還
- 年金事務所への連絡
- 住民税や固定資産税などの税金の納付
病院や介護施設に関する費用の清算や公共料金の精算、解約手続きがあります。また、不動産を借りていた場合には賃貸借契約を解除し、鍵の返却や原状回復を行ったうえで不動産の明け渡しをするということも委任事務の内容とすることができます。
自身が亡くなった事実を事前に頼んでおいた関係者に連絡してもらうことができます。
遺品の整理はもちろんのこと、最近ではSNSなどのアカウントの削除やパソコンやスマホに入った個人情報などの記録を抹消するといったデジタル遺品の整理も忘れずに行う必要がありますが、委任事務の内容とすることができます。
なお、SNSのアカウントについては、乗っ取り行為や荒らし行為に使われることもあります。愁いを除くため、忘れずに削除するようにすることが重要です。
自身が亡くなったあとに残されてしまうペットについて、面倒を見てくれる人や施設などへの引き渡しを死後事務委任契約の内容とすることができます。
死後事務委任契約では、上記の通り、非常に幅広い事務について委任できます。とはいえ、死後事務委任契約によってできない手続きも存在します。具体的には以下のようなものです。
相続分の指定(長男には2分の1の割合で、長女には3分の1の割合でなど)、遺産分割方法の指定(すべての不動産は妻に渡すなど)といった相続に関する事項、認知や遺言執行者の指定など身分関係に関する事項については、遺言書に記載した場合に法的な拘束力を持つ事項です。従い、相続や身分関係に関する事項は、遺言書で指定しておく必要があります。
死後事務委任契約は、依頼者の死後に行う内容を委任するものであるため、生前の財産管理や身の回りのことについては委任することができません。
これとは別に、財産管理契約や見守り契約、判断能力が低下した本人のための後見制度などの併用を検討する必要があります。
死後事務委任契約は、委任者の生前の希望を、亡くなったあとにかなえることができます。
相続という場面での問題であるため、遺言や後見制度などほかの制度と兼ね合いが重要となり、相続全般に関する観点から慎重に死後事務委任契約の内容を検討する必要があります。
ご自身の場合では、どの様に進めるのが良いか検討の参考にしてください。 不安な場合は、専門家に相談すると良いでしょう。