
所有者不明土地・建物管理制度
ご存じでしょうか? 今回は、この「所有者不明土地・建物管理制度」ついて、どのようなものか確認していきましょう。。
令和5年(2023年)4月1日に民法の一部が改正施行され、相続登記の義務化等がなされました。その中で、土地や建物の所有者が調査を尽くしても不明である場合には、「所有者不明土地・建物管理制度」を利用することができるようになりました。
土地や建物の所有者が、調査を尽くしても不明である場合には、土地・建物の管理・処分が困難になります。
公共事業の用地取得や空き家の管理など、所有者の所在が不明な土地・建物の管理・処分が必要であるケースでは、所有者の属性等に応じて下記の財産管理制度が利用する以外ありませんでした。
- 不在者財産管理人:住所等を不在にしている人の財産を管理する人がいないとき
- 相続財産管理人:人が死亡して相続人がいることが明らかでないとき
- 清算人(会社法第478条第2項):法人を解散したが、清算人となるべき者がいないとき
しかし、これらの財産管理制度では、選任された財産を管理する者は、不在者の財産全般又は相続財産全般を管理することとされているため、財産全般の管理を前提とした事務作業や費用等の負担を強いられ、事案処理にも時間を要してしまいます。
特に、数次相続【注】により複数の相続人が不在者になっている場合には、各不在者について別々の財産を管理する者が選任され、時間的及び金銭的に更にコストが増大してしまいます。
【注】亡くなった方の相続が始まった後、遺産分割を行わないうちに相続人が亡くなり、次の相続が開始したしまった状態のこと
また、所有者を全く特定できない土地・建物については、既存の各種の財産管理制度を利用することができませんでした。
所有者又はその所在が不明であることにより、土地を適切に管理することが困難な状態になっている場合に対応し、土地の円滑かつ適正な管理を図ることが必要ですが、そのために、土地所有権に制約を加え適切な管理を可能とする、特定の土地・建物のみに特化して管理を行う「所有者不明土地・建物管理制度」が創設されました。
所有者不明土地・建物管理制度の活用により、土地・建物の効率的かつ適切な管理を実現することができ、次のような効果が生まれます。
➀所有者不明土地・建物以外の他の財産の調査・管理は不要となり、管理期間も短縮化する結果、費用の負担も軽減する。
②複数の共有者が不明となっているときは、不明共有持分の全部について一人の管理人に管理をしてもらうことが可能になる。
なお、所有者が特定できないケースについても対応が可能となります。
管理人による管理の対象となる財産は、所有者不明土地(建物)のほか、土地(建物)にある所有者の動産、管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合はその敷地利用権(借地権等)にも及びますが、その他の財産には及びません。(民法第264の第2項、第264の8第2項)
なお、所有者不明土地上に所有者不明建物があるケースで、土地・建物両方を管理命令の対象とするためには、土地管理命令と建物管理命令の双方を申し立てる必要があります。
土地・建物の管理人を同一の者とすることも可能ですが、土地・建物の所有者が異なるケース等では利益相反の可能性もあり土地管理命令と建物管理命令の双方を申し立てる必要があります。
所有者不明土地・建物の管理命令の申立ては、その所有者不明土地・建物 管理命令に係る土地 ・建物 の所在地を管轄する地方裁判所に対して行います。 (非訟法第90条第1項)
所有者不明土地・建物の管理命令の申立ができる人は、所有者不明土地・建物の管理についての利害関係人になります。(民法第264の2第I項、第264の8第I項)
利害関係人の具体例として、次のようなものがあります。
- 公共事業の実施者など不動産の利用・取得を希望する者
- 共有地における不明共有者以外の共有者
所有者不明土地・建物の管理命令の申立てをするには以下の要件を満たす必要があります。もし、満たしていなければ却下されてしまいます。
- 所有者が行方不明であること
- 管理状況等に照らし、管理人による管理の必要があること
裁判所は、利害関係人の申立てにより、土地の所有者の利益を保護しつつ、土地を適切に管理することを可能とするため、 管理命令を出し、管理人を選任します。
なお、不在者財産管理制度とは異なり、所有者不明土地管理制度では管理人の選任が必須となっています。
所有者不明土地・建物の管理命令の申立てにかかる費用は、次のとおりです。(令和6年7月現在)
- 申立ての対象となる土地・建物(共有持分の場合はその持分の筆数1につき)1,000円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手6,000円分(内訳:500円×8、100円×10、84円×5、50円×5、20円×10、10円×10、2円×10、1円×10)
- 登記事項証明書取得費用 5,000円程度~10,000円程度(取得する書類数によって異なる)
上記の他、管理費用や管理人報酬に充当するため、予納金を収める必要があります。
なお、管理が終了して残余の予納金がある場合は、その残余分は返還されます。一方、当初の見通しを上回る費用が必要となった場合等は、予納金の追加を裁判所から求められます。
所有者不明土地・建物の管理命令の申立てに必要となる書類は、次のとおりです。
- 申立書(裁判所指定のもの)(正本1通、副本(所有者分及び管理人分))
- 所有者・共有者の探索等に関する報告書(裁判所指定のもの)
- 対象の土地又は建物に係る登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 登記所に備付けてある対象の土地・建物の地図又は地図に準ずる図面の写し(不動産登記法第14条第1項、同第4項)
- 土地(建物)の所在地に至るまでの通常の経路及び方法(土地(建物)の住居表示を記載する。) を記載した図面
- 土地(建物)の現況調査報告書又は評価書(もしあれば)
- 登記されていない場合は、土地所在図(法務省令で定めるところにより作成されるもの)(不動産登記令第2条第2号)
- 登記されていない場合は、建物図面・各階平面図(法務省令で定めるところにより作成されるもの)(不動産登記令第2条第5号及び同第6号)
- 所有者不明土地・建物 について、適切な管理が必要な状況にあることを裏付ける資料
- 所有者不明土地・建物の所有者の戸籍謄本、戸籍附票又は住民票(戸籍や住民票がない場合は、登記記録上の住所の不在籍証明書及び不在住証明書)
- 不明の事実を証する資料の事実を証する資料(不明者あての手紙などで「あて所に尋ね当たらず」の理由が付され返送されたもの(コピー))
- 所有者不明土地 ・建物を適切に管理するため に必要となる費用に関する資料(業者による簡易な見積りをした結果等)
- その他 参考となる 資料
- 申立てを理由づける事実についての証拠書類の写し(非訟規則第37条第3項)
なお、審理のために必要な場合は、裁判所より追加書類が指定されます。
「所有者不明土地・建物管理制度」による管理人の権限や義務等は、次の通りです。
管理人の管理権限が及ぶ財産は、大きく分けて、① 所有者不明土地・建物管理命令の対象である土地・建物、② 所有者不明土地・建物管理命令の効力が及ぶ動産(例えば、土地・建物内に置かれた所有者又は共有持分権者の物品等)、③ ①②の管理、処分によって管理人が得た財産(土地・建物の賃貸収入、動産の売却代金等)となります。(民法第264条の3第1項、民法第264条の8第5項)
管理人は、所有者不明土地・建物の手入れや修繕等の保存行為及び所有者不明土地・建物の性質を変えない範囲での賃貸等の利用行為、土地・建物の価値を高める改良行為について、裁判所の許可を得ずに行うことができます。(民法第264条の3第2項、第264条の8第5項)
一方、上記の範囲を超える行為を行う場合には、裁判所の許可を得なければならないとされています(民法第264条の3第2項本文、第264の8第5項)
なお、対象財産の管理処分権は管理人に専属します。所有者不明土地・建物等に関する訴訟においても、管理人が原告又は被告となります。(民法第264の4、第264の8第5項)
管理人は、所有者に対して善管注意義務を負います。また、数人の共有者の共有持分に係る管理人は、その対象となる共有者全員のために誠実公平義務を負います。(民法第264の5、第264の8第5項)
したがって、所有者の利益を害するような行為は行うことはできません。
なお、管理人は、所有者以外の利害関係人に対しては上記の善管注意義務を負いませんが、利害関係人の利益を害するような管理を行った場合、不法行為に基づく損害賠償請求の対象になる可能性があります。
管理人は、所有者不明土地等(予納金を含む)から、裁判所が定める額の費用の前払・報酬を受けます。費用・報酬は所有者の負担になります。(民法264の7第1項・同第2項)
土地・建物の売却等により金銭が生じたときは、管理人は、供託をし、その旨を公告します。(非訟事件手続法第90条第8項、同第16項)
■土地・建物の所有者が、調査を尽くしても不明である場合には、土地・建物の管理・処分が困難な現状があります。
■既存の管理制度では選任された財産管理人は、不在者の財産全般又は相続財産全般を管理することとされているため、財産全般の管理を前提とした事務作業や費用等の負担を強いられ、事案処理にも時間を要しています。
■所有者を全く特定できない土地・建物については、既存の各種の財産管理制度を利用することができないことがあります。
■所有者又はその所在が不明であることにより、土地を適切に管理することが困難な状態になっている場合に対応し、特定の土地・建物のみに特化して管理を行う「所有者不明土地・建物管理制度」が創設されました
■「所有者不明土地・建物管理制度」により、土地・建物の効率的かつ適切な管理を実現し、次のような効果が生まれます。
- 所有者不明土地・建物以外の他の財産の調査・管理は不要であり、管理期間も短縮化する結果、予納金の負担も軽減する。
- 複数の共有者が不明となっているときは、不明共有持分の総体について一人の管理人を選任することが可能になる。
いかがだったでしょうか。
不在者財産管理人制度や相続財産管理人制度でカバーできない問題は、この「所有者不明土地・建物管理制度」を活用する余地があるか確認したらよいでしょう。
より詳しく知りたい場合は、専門家に相談してみて下さい。
第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令 (所有者不明土地管理命令) 第二百六十四条の二 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。 2 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。 3 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。 4 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。 (所有者不明土地管理人の権限) 第二百六十四条の三 前条第四項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。 2 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。 一 保存行為 二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為 (所有者不明土地等に関する訴えの取扱い) 第二百六十四条の四 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。 (所有者不明土地管理人の義務) 第二百六十四条の五 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。 2 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。 (所有者不明土地管理人の解任及び辞任) 第二百六十四条の六 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。 2 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。 (所有者不明土地管理人の報酬等) 第二百六十四条の七 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。 2 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。 (所有者不明建物管理命令) 第二百六十四条の八 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第四項に規定する所有者不明建物管理人をいう。以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。 2 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。 3 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発せられた後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。 4 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。 5 第二百六十四条の三から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令及び所有者不明建物管理人について準用する。 |