家族信託について
よく耳にされる方がいらっしゃるのではないでしょうか?
家族信託とはどの様なものか説明できますか? 今回は、一緒に家族信託を見ていきましょう。
そもそも信託とは、自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう制度です。
歴史的には、ヨーロッパ中世の時代に、十字軍に参加する兵士が、残された妻や家族のために、信頼できる人に自己の財産の管理を委託したことに由来し、英国で制度として発展しました。
現在では、財産を所有する委託者が一定の目的のため、信託契約や遺言等によって信頼できる受託者に対してその財産を移転し、受託者は信託契約や遺言等に基づきその移転を受けた財産(信託財産)の管理又は処分及びその他の当該目的のために必要な行為をし、信託財産が生み出す収入等を受ける権利(受益権)を受益者が享受する三者間の法律関係をいいます。
信託は信託契約や遺言等により行いますが、信託契約が一般的です。
信託契約は、委託者と受託者との間で締結する委託契約で、受託者が信託財産の管理又は処分を契約により受託します。
受託者は、契約に定めるところに従い、信託財産から信託報酬を受けることができます。 また、信託契約は、その類型により、委託者と受益者は、同一人である場合(自益信託)と、別人である場合(他益信託)とがあります。
本来、財産を管理又は処分をして、その財産から得られる利益を受けることができるのは、その財産の所有者です。ただし、管理や判断の能力の問題から、財産を管理又は処分する人と、その財産から得られる利益を受ける人を別にしたい場合があります。このような場合には、信託の活用が考えられます。
例えば、高齢者(親)が賃貸不動産を所有する場合では、自益信託を活用し、親が委託者兼受益者、子を受託者、賃貸不動産を信託財産とする信託契約を親子間で結び、受託者である子はこの信託契約に基づき賃貸不動産の私法上の所有者となって管理をすることが考えられます。これは、高齢者(親)が認知症になることに備えて、組成するとよいものでしょう。
また、祖父が未成年者である孫に賃貸不動産を贈与する場合は、他益信託を活用し、祖父が委託者、子を受託者、賃貸不動産を信託財産とする信託契約を親子間で結び、受託者である子はこの信託契約に基づき賃貸不動産の私法上の所有者として管理し、信託財産から得られる不動産賃貸の利益を受益者である孫が得ることが考えられます。
知的障害がある子どもがいる場合に、親が亡くなるときに備えて、頼れる兄弟などに、あらかじめ財産を信託しておき、親亡き後には、信託した財産から障害のある子のためにお金を使ってもらいます。障害のある子が亡くなったときには、残った財産はその面倒を見てくれた兄弟などに渡したり、お世話になった施設に寄付したりすることもできます。
上記のように、受託者を家族にする信託を、特に「家族信託」と呼んだりします。
なお、高齢者(親や祖父母)が認知症になってからでは、委任者に意思能力が無いと判断される可能性が高いので、信託契約を締結する事はできませんので、事前に準備をする必要があるでしょう。
通常の信託について、所得税法第13 条第1項では「信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。」としています。(法人税法・相続税法にも同旨の規定があります)
この規定により、委託者が自ら受益者となる自益信託の場合は、税務上は受託者へ(信託)財産の移転(譲渡)はなかったものとして取り扱われます。したがって、賃貸不動産を信託財産とする自益信託の場合は、信託設定前と同じように委託者兼受益者の個人が不動産所得に係る所得税の申告をすることになります。
委託者以外の者が受益者となる他益信託の場合は、(1)で挙げた規定の反対解釈により、委託者から受益者にその信託財産を移転(譲渡)したことになります。他益信託の受益者が適正な対価を負担していないと、税務上、委託者から受益者に低廉または無償の財産の譲渡が行われたことになります。この場合は、委託者と受益者がともに個人であれば、委託者から受益者に信託受益権の贈与があったものとされます。(相続税法第9条の2第1項)
賃貸不動産を信託財産とする他益信託については、その賃貸不動産について個人間で贈与があったものとして、受益者が贈与税の申告を行います。その後、毎年の賃貸不動産の収益に係る不動産所得について受益者の個人が所得税の申告をすることになります。
不動産を信託した場合、その旨の登記をしなければ、その不動産が信託財産に属することを第三者に対抗することができません。(信託法第14条)
したがって不動産を信託した場合には、「信託の登記」が必要になります。信託の登記については、家屋の所有権に関してその価格(固定資産税評価額)の0.4%(登録免許税法第9条、別表第一)、土地の所有権に関しては0.3%(租税特別措置法第72条)相当額の登録免許税の納税が必要となります。
なお、信託を原因とする不動産の移転登記に関しては、登録免許税法第7条により、登録免許税は課税されません。
受託者は、信託財産である不動産を私法上取得したことになりますが、地方税法第73 条の7により、受託者には不動産取得税は課税されません。
家族信託する場合、以下のような流れで手続きを進めることになります。
- 信託契約を締結する
- 信託口口座の開設
- 信託登記を行う
- 信託財産の管理、運用の開始
委託者と受託者で信託契約の内容について取り決めをして、契約書を取り交わします。契約書に記載する内容はそれぞれ自由に決めて問題ありませんが、主に以下のような事項について取り決めることになります。
- 信託の目的
- 信託財産の範囲
- 財産の管理方法や処分権限の範囲
- 受託者・受益者が誰か
- 信託の終了事由
信託財産を管理するためには、信託財産管理用の銀行口座を開設する必要があります。受託者には、自分の財産と信託財産を分別して管理する義務があるためです。
なお、信託銀行や銀行、信用金庫の中には、家族信託専用の口座を開設できるところがあります。
信託財産が不動産の場合、信託財産であることを公示するために、名義人を委託者から受託者に変更する登記を行う必要があります。個人でも登記手続き等をすることができます。しかし、対応するのが難しい場合には、専門家に相談することをおすすめします。
ここまでの手続きがすべて終われば、信託財産を管理、運用することができるようになります。それと同時に、信託財産を管理する義務も生じます。
専門家にかかる報酬について、統一の報酬基準はありませんが、信託する財産の1%以上は見ておいた方がいいでしょう。
家族信託契約は終わりではなく、スタートになります。関わった専門家としては、自分が設計した家族信託の利用者と関係を維持できるよう連絡を取り合い、予想外の事態が生じた時にも連絡をもらい対応していくことが求められます。しかも何年も続く可能性があります。
その手続き後のサポートも元の報酬に含んでいると考えているからです。目の前の専門家が契約後もサポートをしてくれるのかを確認して選んでおく必要があるでしょう。
認知症対策を目的とした場合、残念ながら、家族信託だけでは不十分です。それは家族信託には、入居契約等を代理する権限(身上監護権)がないためです。
また、遺言効果も家族信託した財産にしか及びません。他に相続財産がある場合には、相続人間で遺産分割協議をしなければいけません。
そのため、家族信託契約と任意後見契約、遺言はセットで準備しておくと、お互いの不十分な箇所をカバーできるため、想定外のことが起きても対応できる範囲を広げることができます。これは利用者側の安心にもつながるでしょう。
推定相続人等を含めた関係者全員の理解を事前に得ておくことがとても重要です。
知らされていなかったというマイナスの感情があると、大きなトラブルに発展する可能性が高いからです。関係者全員が納得して進めていくことが、将来の紛争を予防します。
そしてそれが主役である親などの被相続人の願いだと思います。
また、どうしても関係者全員で話すことができない場合には、専門家に相談するとよいでしょう。専門家は、家族間のトラブルを予防する工夫を一緒に考えてくれるでしょう。
以上が、家族信託の概要です。
いかがでしたか? 難しかったですか?
ご自身の場合では、どの様に進めるのが良いか検討の参考にしてください。 不安な場合は、専門家に相談すると良いでしょう。