
任意後見契約について
ご存じの方も多いと思います。 任意後見人を定めるには、任意後見契約を締結する必要があります。
今回は、任意後見契約を確認しながら、任意後見人の役割などを見ていきましょう。
任意後見契約とは、委任者が自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について、任意後見人を選任して、その方に「代理権を与える契約」です。
「任意後見契約に関する法律」(平成11年法律第150号)では、任意後見契約のことを、次のように定義しています。
任意後見契約は「契約」ですから、契約自由の原則に従い、当事者双方の合意により、法律の趣旨に反しない限り、自由にその内容を定めることができます。
誰を任意後見人として選ぶか、その任意後見人にどのような代理権を与え、どこまでの仕事をしてもらうかは、委任者本人と任意後見受任者との話合いにより、自由に決めることができます。
なお、任意後見契約は、「法務省令で定める様式の公正証書」によらなければなりませんので(第3条)、ご自身又は専門家の作成したドラフトに基づき、公証人に依頼して公正証書として作成して貰わなければなりません。
また、法律が定めるとおり、家庭裁判所によって「任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる」契約でもあります。
任意後見人の仕事は、上記のとおり、与えられた代理権を用いて行うものであり、大きく分けますと、委任者の「財産管理」と「身上監護」になります。
「財産管理」は、ご本人の財産の管理を行うことです。具体的には、自宅等の不動産や預貯金等の管理、年金等の受取、税金や公共料金の支払、本人が行うべき法律行為(遺産分割協議や賃貸借契約など)があげられます。
「身上監護」は、ご本人の生活に関する法律行為を行うことであり、介護や生活面の手配です。具体的には、要介護認定の申請等に関する諸手続、介護サービス提供機関との介護サービス提供契約の締結、介護費用の支払、医療契約の締結、入院の手続、入院費用の支払、生活費を届けたり送金したりする行為、老人ホームへ入居する際の入居契約を締結する行為等があげられます。
このように、任意後見人の仕事は、委任者の財産をきちんと管理し、ご本人の生活面のバックアップをすることといえます。
なお、任意後見人の仕事は、代理権を用いて行う法律行為であり、任意後見人が自分で委任者のおむつを替えたり掃除をしたりするという事実行為をすることではありません。
法律が任意後見人としてふさわしくないと定めている事由がない限り、成人であれば、誰でも、委任者本人の信頼できる人を任意後見人にすることができます。本人の子、兄弟姉妹、甥姪等の親族や知人でもかまいません。
なお、法律が任意後見人としてふさわしくないとしているのは、次の事由がある人です。
- 家庭裁判所で法定代理人・保佐人・補助人を解任された者
- 破産者・行方不明者
- 本人に対して訴訟をし、またはした者およびその配偶者ならびに直系血族
- 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適さない事由がある者
行政書士や弁護士、社会福祉士といった専門家に依頼してもよいですし、最近では、市町村等の支援を受けて後見業務を行う市民後見人の制度も活用できます。
厚生労働省ホームページによりますと、多くの市町村が市民後見人の育成・活動支援に取り組んでいます。
任意後見人に報酬を支払うか否か、支払う場合にいくらとするかは、委任者本人と任意後見受任者との話合いで決めることになります。身内の方が任意後見人となる場合には、無報酬とする事例も多いようです。
任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約の内容どおり、適正に仕事をしているかを、任意後見人から財産目録などを提出させるなどして監督します。また、本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときに、任意後見監督人が本人を代理します。任意後見監督人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。
任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所が事案に応じて決定します。委任者本人の財産の額、監督事務の内容その他の諸事情を総合して決定されているようです。報酬額の目安については、各家庭裁判所のホームページで公開されています。
任意後見契約は、本人の判断能力がなければ、締結できません。しかし、認知症であるからといって直ちに判断能力が欠けていると評価されるわけではありません。
厚生労働省の平成30年6月付けの「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」では、①本人の意思決定能力は行為内容により相対的に判断される、②意思決定能力は、認知症の状態だけではなく、社会心理的・環境的・医学身体的・精神的・神経学的状態によって変化するので、残存能力への配慮が必要であるとされています。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf公証人は、委任者本人や関係者からの説明、医師の診断等を参考に個別に判断能力の有無を判断し、公正証書が作成できるかどうかを判断するような実務となっています。。
以上をまとめますと、次のようになります。
- 任意後見契約は、形式が定まっていて、公正証書にする必要がある。
- 任意後見契約は、任意後見監督人が選任されてから、効力を生ずる。
- 任意後見人は、任意後見契約に基づき、ご本人の「財産管理」と「身上監護」に関する法律行為を代理する。
- 任意後見人の報酬は、合意により定まり、任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が決定する。
- ご本人が認知症であっても、任意後見契約を締結できる可能性はある。
いかがだったでしょうか。
ご自身又は親御さんに関して、任意後見人の選任を検討する際の参考としてください。
不安な方は、専門家に相談すると良いでしょう。