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フリーランス保護法のこと

フリーランス保護法のこと

フリーランスとして働く方が増えてきたため、令和6年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号。以下「フリーランス保護法」といいます。)が施行されることとなりました。

どういった法律なのか、一緒に見ていきましょう。

1.フリーランスとは

フリーランスとは、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(概要版)」によれば、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」をいいます。

https://www.mhlw.go.jp/content/000766340.pdf

「個人」であるフリーランスと発注事業者との間で交渉力や情報収集力の格差が生じやすいことから、フリーランスが契約主体となる取引の適正化及び就業環境の整備を図るため、フリーランスに対して業務を委託する発注事業者を規制する必要があり、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号。以下「フリーランス保護法」といいます。)が令和5年4月28日に成立し、令和6年11月1日に施行されることになりました。

フリーランスに業務を委託する発注事業者に対する義務及び禁止事項の概要は、以下の図のとおりです。規制対象となる発注事業者については、①フリーランスに対して業務を委託する全ての事業者(従業員又は役員の有無は問わず、従業員を使用しない個人も含む。)と、②フリーランスに対して業務を委託する事業者のうち、従業員又は役員がいる者に分けられ、②の方が課される義務が多くなっています。

また、②については、業務委託の期間ごとに、(a)1か月以上の業務委託である場合と(b)6か月以上の業務委託である場合に分けられ、それぞれ義務及び禁止行為の内容が定められています。

【内閣官房新しい資本主義実現本部事務局、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和1年11月1日施行】説明資料」6頁より抜粋】

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/freelance/dai1/siryou2.pdf

2. フリーランス保護法の制定背景

近年、働き方の多様化が進み、フリーランスという働き方が普及していますが、フリーランスが取引先との関係で様々な問題・トラブルを経験していることが顕著となっています。例えば、内閣官房ほかによる実態調査では、フリーランスの約4割が受け取る報酬の不払い、支払遅延などのトラブルを経験しており、また約4割が記載の不十分な発注書しか受け取っていないか、そもそも発注書を受領していないことが明らかとなりました。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/chousa_r3.pdf

また、「偽装フリーランス問題」という言葉があるように、企業が人件費を抑えるために、従業員に独立してもらったものの、自律的な立場にあるはずのフリーランスの実際の働き方が、昔の職場から受注する仕事が大部分で、労働者と変わらない条件で働いている状態であるという問題があります。

フリーランスがこのような問題に直面する要因は、一人の個人として業務委託を受けるフリーランスと、組織である発注事業者との間には、交渉力や情報収集力の格差が生じやすいことにあると考えられています。

そこで、事業者間の業務委託における「個人」と「組織」の間における交渉力や情報収集力の格差、それに伴う「個人」たる受注事業者の取引上の弱い立場に着目し、発注事業者とフリーランスの業務委託に係る取引全般に妥当する、業種横断的に共通する最低限の規律を設け、それによって、フリーランスに係る①取引の適正化、②就業環境の整備を図るため、フリーランス保護法が制定されることとなりました。

3. フリーランス保護法と下請法の違い

1.適用範囲の違い

「下請代金支払遅延等防止法」(昭和31年法律第120号。以下「下請法」といいます。)の適用には、資本金の要件があり、発注事業者の資本金が1000万円を超える場合にのみ適用があります。しかし、フリーランスに業務を委託する発注事業者は、資本金が1000万円以下の場合もあり、その場合はフリーランスとの取引が下請法による規制対象となりません。

しかし、フリーランス保護法には資本金要件が無く、フリーランスに対して業務を委託する発注事業者の全てに適用があります。

それでは、フリーランス保護法の対象となる事業者について確認しましょう。

【1】特定受託事業者(フリーランス)

フリーランス保護法では、フリーランスを「特定受託事業者」といいます。「特定受託事業者」とは、業務委託先の事業者であって、①個人、又は、②代表者1名の会社で、かつ、従業員を使用しないものです。(フリーランス保護法第2条第1項)

1人でも従業員を使用していれば「特定受託事業者」に該当しないため、フリーランス保護法の適用対象外となります。

なお、上記の「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれません。現状では、雇用保険対象者の範囲を参考に、「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」を上記の「従業員」とすることが想定されています。

例えば、業務委託先のカメラマンが、週所定労働10時間かつ2か月の雇用見込みのアシスタントを使用していたとしても、「従業員」を使用していることにはならず、フリーランス保護法が適用される「特定受託事業者」に該当します。

【2】業務委託事業者、特定業務委託事業者(発注事業者)

フリーランス保護法によって義務を課される事業者は、フリーランス(特定受託事業者)に対して業務を委託する発注事業者です。同法上、発注事業者を「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」といいます。

「業務委託事業者」とは、特定受託事業者(フリーランス)に対して業務委託をする事業者です(同法2条5項)。従業員を使用しない個人も含むため、フリーランスが他のフリーランスに業務を委託する場合のように、発注事業者がフリーランスであっても、「業務委託事業者」に該当します。

「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、①個人であって、従業員を使用するもの、若しくは、②法人であって、二以上の役員があり、又は、従業員を使用するものです。(同法第2条第6項) つまり、業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者が「特定業務委託事業者」に該当します。

「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」のいずれかによって、フリーランス保護法によって課される義務の範囲は大きく異なります。

2.規定内容の違い

義務規定及び禁止規定のうち、下請法においてのみ規定されているものは、次のとおりです。

  • 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(下請法第4条第2項第1号)
  • 割引困難な手形の交付の禁止(下請法第4条第2項第2号)
  • 遅延利息の支払義務(下請法第4条の2)
  • 取引記録の作成・保存義務(下請法第5条)

フリーランス保護法では、下請法とは異なり、就業環境の整備についての規定が設けられています。これは、個人として業務委託を受けるフリーランスが受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備する必要性が高いためです。

就業環境の整備義務の具体的な内容は、次のとおりです。

  • 募集情報の的確な表示(フリーランス保護法第12条)
  • 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(フリーランス保護法第13条)
  • 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(ハラスメント対策に係る体制整備)(フリーランス保護法14条)
  • 解除等の予告(フリーランス保護法第16条)

4. フリーランス保護法で特に守るべき内容

フリーランス保護法で、業務委託事業者として対応すべき特に重要なポイントは、次の通りです。

1.取引条件の明示義務(第3条)

【1】明示すべき事項

業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合、直ちに、特定受託事業者の給付の内容(役務内容、納期、役務提供場所等)、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対して明示することが義務付けられています。(フリーランス保護法第3条第1項)

これは、フリーランスに業務委託を行うすべての発注事業者(業務委託事業者)に課されている義務です。 ただし、委託条件を明示する時点で定められない事項について正当な理由がある場合には、これを定めた後は、直ちに、当該事項を特定受託事業者に補充の明示を行わなければなりません。

【2】明示の方法

明示の方法としては、①書面での交付と②電磁的方法での提供のいずれかの方法を選択することができます。 下請法第3条では、電磁的方法によって明示をする場合には下請事業者の承諾が必要となるため、この点でフリーランス保護法と異なります。

なお、業務委託事業者が取引条件を電磁的方法により明示した場合でも、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合を除き、遅滞なく、書面を交付しなければならなりません。(フリーランス保護法第3条第2項)

2.期日における報酬支払義務(第4条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、特定受託事業者の給付を受領した日又は役務の提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めて、同期日までに報酬を支払わなければなりません。(フリーランス保護法第4条第1項、同第5項)

支払期日を定めなかった場合などには、次の日が支払期日とみなされます。(フリーランス保護法第4条第2項)

  • 当事者間で支払期日を定めなかったとき ➡ 給付(物品や役務)を受領した日
  • 物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたとき ➡ 給付(物品や役務)を受領した日から起算して60日を経過する日

ただし、元委託者から受けた業務の全部又は一部を、特定業務委託事業者が特定受託事業者に再委託した場合には、一定の要件のもとで、再委託に係る報酬の支払期日を、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めて、同期日までに報酬を支払わなければなりません。(フリーランス保護法第4条第3項)

3.遵守事項(第5条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、特定受託事業者との1か月以上の業務委託に関し、以下の事項をしてはなりません。

受領拒否の禁止(第1項第1号)特定受託事業者に責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること。
発注者の一方的都合により発注取消しをして受け取らないことも、受領拒否にあたります。
報酬の減額の禁止(第1項第2号)特定受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した報酬を発注後に減額すること。
減額についてあらかじめ合意があったとしても、特定受託事業者に責任がないのに減じた場合は違反となります。
返品の禁止(第1項第3号)特定受託事業者に責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること。
受入検査の有無を問わず、事実上、特定業務委託事業者の支配下に置けば、受領に該当しますので、以降は「返品」等の問題となります。
買いたたきの禁止(第1項第4号)物品・役務等の給付に対し一般的に支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること。
①対価の決定方法、②対価の決定内容、③「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離状況、④給付に必要な原材料等の価格動向といった要素が総合的に考慮されます。
購入・利用強制の禁止(第1項第5号)特定受託事業者に発注する物品の品質を維持するためなどの正当な理由がないのに、自己が指定する物品(製品、原材料等)や役務(保険、リース等)を強制して購入又は利用させること。
不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第2項第1号)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
①特定受託事業者の直接の利益とならない場合や、②特定受託事業者の利益との関係を明確にしないで提供させる場合が問題となります。
不当な給付内容の変更、やり直しの禁止(第2項2号)特定受託事業者に責任がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後若しくは特定受託事業者から役務の提供を受けた後に給付をやり直させること。
特定受託事業者が作業に当たって負担する費用を負担せずに、一方的に発注を取り消すことも含まれます。

4.募集情報の的確な表示義務(第12条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、広告等により特定受託事業者の募集を行うときは、次の情報について、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。(フリーランス保護法第12条第1項、同第2項)

  • 業務の内容
  • 業務に従事する場所・期間・時間に関する事項
  • 報酬に関する事項
  • 契約の解除(契約の満了後の不更新の場合を含む)に関する事項
  • 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項

ここにいう「広告等」とは、①新聞、雑誌、その他の刊行物に掲載する広告、②文書の掲出・頒布、③書面、④ファックス、⑤電子メール・メッセージアプリ、アプリ等、⑥放送(テレビ、ラジオ等)、オンデマンド放送等が含まれます。

5.解除等の事前予告・理由開示義務(第16条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、6ヶ月以上の継続的業務委託(契約の更新により期間継続して行うこととなる業務委託も含む。)に係る契約を中途解除又は更新しない場合には、特定受託事業者に対し少なくとも30日前までにその旨を予告する必要があります。(フリーランス保護法第16条第1項)

また、予告の日から契約満了までの間に、特定受託事業者が契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は、これを開示しなければなりません。(フリーランス保護法第16条第2項)

6.その他

上記の他、実務上は、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(第13条)及びハラスメント対策に係る体制整備義務(第14条)の遵守が重要となりますので、併せて対応する必要があります。

5. 遵守義務違反をした場合

フリーランス保護法に定める義務を遵守しない場合、当該特定業務委託事業者に対し、その違反を是正し、又は防止するために必要な措置をとるべきことを勧告することができます。(フリーランス保護法第18条)

また、勧告(ハラスメント対策に係る体制整備義務に係るものを除く。)を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、当該勧告を受けた者に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができ、また当該命令を受けた者を公表することができます。(フリーランス保護法第19条第1項、第2項)

更には、フリーランス保護法の違反が悪質な場合は、50万円以下の罰金が科せられます。(フリーランス保護法第24条)

6. まとめ

フリーランスに対して業務委託をする事業者は、フリーランスに不利益が生じないよう、上記の各事項を適切に遵守する必要があります。

フリーランス保護法には下請法のような資本金要件がなく、下請法が適用されない資本金1000万円以下の発注事業者とフリーランスとの取引であってもフリーランス保護法が適用されることから、今まで下請法対策をしてこなかった中小企業であってもフリーランス保護法が適用され得ることに留意する必要があります。なお、法律違反が悪質な場合は、50万円以下の罰金が科せられます。

いかがだったでしょうか。フリ-ランスの方もフリーランスに対して業務委託をする事業者も、注意しなければいけない法律ですね。。