パートナーと別れる話
「共同経営のパートナーが辞任したいといっているので、そのパートナーが保有する株式の譲渡の英文契約を作成して欲しい」と相談がありました。
そのクライアントは、永住許可の資格を持つ外国籍の方で、日本人との共同経営でサービス業を営んでいる方です。小さな会社で、基本的には仕事はパートナー2人で回している状況です。
また会社の役員構成等は次のようなものです。
- 代表取締役 A
- 代表取締役 B
- 株主 AとB(持ち株数は50対50)
共同経営というのは揉めることが多いという印象があります。
一緒に会社を起こそうということは、それぞれの得意分野を持ち寄って始めるケースが殆どだと思います。
- Aはコンテンツをもっており、Bはマーケットをもっている
- Aは営業に強く、Bはバックオフィス(事務)に強い、等
当初は、一緒にやろうという意気込みはもちろん、明確な役割分担もあるはずです。しかし、残念ながら、時間が経つに従い、「お客様をもっているほうが偉い」とか、「供給元を抑えている方が偉い」とか、「相手の代わりとなる者はいくらでもいる」となってしまいがちです。
共同パートナーによる会社の設立の手続きを依頼されたときは、上記のような傾向がありがちであることは一応はお話をしています。
民法の「委任」に関する規定に従うこととなっている(会社法第330条)ため、辞任すること自体はいつでも可能です。(民法第651条第1項)
しかし、民法は「相手方に不利な時期に委任を解除したとき」は、「相手方の損害を賠償しなければならない」と規定している(民法第651条第2項第1号)ため、「相手方」すなわち「会社」にとって「不利な時期」に取締役を辞任した場合は、会社から損害賠償請求を受けるリスクがあります。
今回のご依頼の案件では、営業を含めた業務全般を辞任される方がカバーしており、現在仕掛かり中の仕事もあるということなので、仮に突然を退任した場合、仕掛かり中の仕事を中断せざるを得なくなり、取引先に損害が発生してしまうこともあり得ると思われます。
争いが発生する可能性がそれ程あるとは思えませんが、後で処理すべき難題を前にして、「思っていたことと違う」と、お気持ちが変わることもあり得ます。
そこで、念のため、相談者の方と協議のうえ、辞任される方の全株式を相談者の方が譲受をする旨に加え、次のようなことも記載しました。
- 業務の引継ぎ期間の設定と明確な引継ぎ事項
- 引継ぎが完了後であっても、会社の要請があれば、両者間で合意した対価を支払うことにより、辞任される方からアドバイス等のサポートを受けることができる。
結局、辞任される方との会議にも参加して、内容を両当事者が納得するものにチューニングをすることで、両当事者にご満足いただけるものができました。
こういった契約は、いわば、離婚協議書のようなものです。
株式譲渡契約と離婚協議書の記載内容は勿論異なりますが、基本的な構造は同じであるように思われます。
両当事者の確認を取りながらの仕事は、なかなか骨が折れましたが、意義深い案件でした。