
【実務解説】NDAでは規律できないAI学習リスクと契約対応|AI学習禁止条項の実務
「NDAを締結しているから、情報漏洩の心配はない」
――その前提は、すでに崩れています。
ChatGPTをはじめとする生成AIの普及により、企業のDXは急速に進展しました。一方で、「NDA AIリスク」や「生成AIによる情報漏洩」といった新たな課題が顕在化しています。
それは、NDAを締結していても、自社データがAIに“学習”されることで、実質的に流出する可能性があるという点です。
しかもこの問題は、契約違反と評価されないまま発生し得るという点で、従来の情報漏洩とは性質が大きく異なります。
本コラムでは、生成AI時代におけるNDAの限界を整理し、実務で使える「AI学習禁止条項」と運用上の対策について解説します。
- 従来型NDAではAIによる情報流出を防げない理由
- 「AI学習」という新たなリスク構造の整理
- 実務で使えるAI学習禁止条項の考え方
- 契約+運用でリスクを抑える具体策
いわゆる「AI学習リスク」とは、提供したデータがAIモデルに取り込まれることで、間接的に外部へ情報が再現・伝播するリスクを指します。
結論として、従来のNDAのままでは、自社のノウハウが“合法的に”流出するリスクがあります。
従来のNDAは、「第三者への開示・漏洩の防止」を主目的として設計されています。
しかし、生成AIの登場により「外部に出ていない=安全」という前提は成立しなくなりました。
その背景には、従来の契約ではカバーしきれていない次の2つの盲点があります。
■盲点①:提供データがAIの学習に利用される
業務提携や開発委託では、以下のような重要情報を相手方に提供することが一般的です。
- 業務マニュアル(業務フロー・手順書)
- ソースコード(システム開発情報)
- 顧客データ(個人情報・取引情報)
- 業務ノウハウ(営業・運用知見)
問題は、これらのデータがAIや機械学習モデルのトレーニングデータとして利用される可能性です。
この場合、データそのものが外部公開されなくても、AIの出力を通じて内容が再現・類推されるおそれがあります。
結果として、自社のノウハウが第三者へ間接的に伝播するリスクが生じます。
■盲点②:「外部漏洩」でなくてもリスクが発生する
従来のNDAが禁止する主な行為は以下のとおりです。
- 目的外使用
- 第三者への開示・漏洩
しかし、相手方が「自社内部のAI」にデータを学習させた場合、形式上は第三者提供に該当しない可能性があります。
さらに、
「業務効率化のためのAI利用」
といった名目であれば、契約上の「目的の範囲内」と解釈される余地もあります。
このように、AI学習という行為自体を直接規律できないことが、従来型NDAの本質的な限界です。
このリスクに対応するためには、契約上、次の点を明確にする必要があります。
- 提供データをAIの学習に利用することの可否
- AI利用の範囲(社内利用/外部提供の有無)
- 学習済みデータの取扱い(削除・保持)
特に重要なのは、
「AI学習への利用を禁止する」または「事前承諾制とする」ことを明記する点です。
(例)
受領当事者は、開示された情報を、機械学習、深層学習その他これらに類する技術の学習データとして利用してはならない。
ただし、開示当事者の事前の書面による承諾がある場合はこの限りでない。
※実務では、対象となるAIの定義やログ・削除義務まで踏み込んだ設計が望まれます。
※加えて、「AIの定義」「ログの保存」「学習データの削除義務」まで規定すると、より実効性が高まります。
AIリスクは、契約条項だけで完全にコントロールすることは困難です。
そのため、運用面での対策と組み合わせることが不可欠です。
具体的には以下の対応が有効です。
- 提供データを必要最小限に限定する
- 機密情報は匿名化・抽象化する
- 相手方のAI利用ポリシー・セキュリティ体制を確認する
- AI利用に関する社内ルールを整備する
契約と運用を一体で設計することで、はじめて実効性のあるリスク管理が実現します。
生成AIの普及により、情報管理の前提は大きく変化しました。
従来のNDAだけでは、
AIによる“見えない情報流出”を防ぐことはできません。
今後は、
- AI利用を前提とした契約設計
- 社内外の運用ルール整備
の両面からの対応が不可欠です。
自社のノウハウと競争優位性を守るためにも、
一度、NDAの内容を見直すことを強く推奨します。
特に、AIを利用する取引がある場合は、早期の契約見直しが重要です。
いわゆる「AI学習リスク」への対応は、今後の契約実務における重要テーマとなります。
※本コラムの内容は一般的な法務情報の提供を目的としています。個別の契約条件や取引実態により適切な対応は異なるため、実務への適用にあたっては専門家へのご相談を推奨します。

